搾取する者の巣窟
男たちの入っていった屋敷は周りに比べて少し大きめな建物だが、裏路地にしては珍しく近くに建物が密集していない。
それだけにこの地区では嫌でも目立つ建物になっているようだ。
「出入りはそれなりにありそうだが、顔に傷のある奴とかがたいのいい奴が多いな」
俺は手前の家の屋根に上ってラングレンの連中の拠点を見下ろしていた。
「それなら入ってみようかね」
屋根から飛び降りるとそのまま歩いて屋敷へ向かう。
「おいおいあんちゃん、ここは一般人お断りだよ。痛い目を見たくなかったらとっとと家に帰って母ちゃんのおっぱいでもしゃぶってな!」
屋敷の門の前に男が立っていた。いかめしい顔つきでいかにも柄の悪さで門番をしているような奴だ。
「それこそおいおいだろ、俺だってガキじゃないんだ。この歳で母親のおっぱい吸っていたら変態だって思われる」
「うるせぇ、お前の母ちゃんでべそ!」
「なんだ見たことあるのか?」
「あるかボケぇ!」
門番のいかめしい男が殴りかかってくる。
「そうだろうな、俺だって自分の母親は見たことがないからな」
俺は男の拳へ手を添えると半円を描くように回す。相手の力を利用して男の身体を転倒させる。
背中から地面に叩き付けられた男は自分が何をされたのかすら判っていない様子だった。
「お役目ご苦労。だが役には立たなかったようだな」
俺が男のみぞおちを踏みつけて扉に向かう。男は蛙の潰れたようなうめき声を上げて失神してしまった。
俺は汚れて傷だらけの門を開ける。
中から出てくるタバコの煙と酒のにおい、そして男たちの汗と体臭が混ざったにおい。
玄関口のホールにたむろしている男たちが一斉に俺を見る。
「なぁんだお前」
俺はあまりにも定番過ぎる反応にため息が漏れてしまう。
「思った通り、真っ当な組織とは思えないのだがな。これなら魔王軍の方がまだ統率も取れていたというものだ」
「なあにをごちゃごちゃ言ってんだ、おい、外の門番はどうした」
「扉の前で寝ているぞ」
「なんだと、何してくれてんだ! こいつ!」
テーブルでカードゲームをしていた男の一人が立ち上がってナイフを突き出してくる。
「俺は素手だというのにいきなりナイフかよ」
俺は男が突き出したナイフの刃を、左の人差し指と中指で挟んで止めた。
「んなっ! びくともしねぇ!」
「冗談言うなよ!」
別の奴が立ち上がってナイフを二本投げてくる。
俺がつまんでいるナイフを引っ張ると、初めにナイフで襲いかかってきた男も引っ張られる。
「お、おわったたた」
男がたたらを踏んで倒れないようにするが、その進んだ先に投げられたナイフが飛んできた。
ナイフは男の背中に刺さり男は倒れる。
「ナイフの使い方もなっていなければ投げる腕も酷いな」
俺は男の背中に刺さっていたナイフを抜き取ると、投げた奴へ投げ返す。
ナイフは男の胸に刺さって仰向けに倒れた。
他の連中も一斉に立ち上がる。数にして八人。チンピラどもは剣を抜いて俺との距離を縮めてくる。
「いいだろう、戦闘開始だ」