勢力図と小さな拠点
集結した者だけでもと、コームの町で集会場となっている建物を使って打ち合わせを始める。
「俺たちにとって状況はあまりよくない。コームの町はかろうじて大陸から島として切り出したから被害を最小限に留める事ができた」
大きなテーブルを囲うようにして皆が座っていた。
俺は集まっている面々を見ながらゆっくりと言葉を紡いでいく。
「だがブラッシュは占領後の復興がこれからだし、クシィに至っては遠征軍の撤退もそうだが町そのものが崩壊したという事だな」
ベルゼルが重々しくうなずいた。
「申し訳ございません。ワタクシがおりながら……」
「ベルゼルを責めるつもりはない。勝敗は兵家の常だ。それにこれは戦とはまた異なる、そうだな……天災にも近い事だろうよ」
俺の言葉にベルゼルは深く頭を垂れる。
「この大陸……確かトライアンフ大陸と言っていたか」
改めて確認した俺にシルヴィアが答えた。
「はい、コームの皆さんに確認しました。ここはトライアンフという国が興った地、そしてその国が強大な力をもって支配していた大陸と聞きます」
「今俺たちの敵になっている凱王はトライアンフ第八帝国を名乗っているようだが」
「ゼロさんのおっしゃる通りです。政治体制や支配者の血筋は異なるのですが国家としてはトライアンフという国名を使用しているとの事」
「なるほどな。俺たちの国々も大陸という概念はあまり持っていなかったからな」
「私たちの大陸となりますと……統一国家の名を取るとしましたらレイヌール大陸、と呼称するのがよろしいかもしれませんね」
シルヴィアは少しいたずらっぽく俺を見て笑う。
「まあそれでも構わないがな、便宜上大陸名もあった方がいいだろうから」
「はい。また改めて検討いたしましょう」
「それはともかくだ。目下の問題としては俺たちに牙を向ける存在についてだ」
それに反応してルシルが口を開く。
「その凱王……トライアンフ第八帝国とあの虫の大群だね、ゼロ」
「その通りだルシル。俺は凱王さえ倒してしまえば、その……なんだ、レイヌール大陸への侵攻は収まると思っていた。だがあの虫だ」
俺は脇に置いていた小袋から虫の脚を取り出してテーブルの上に放り投げる。
虫の脚は本隊から千切れている状態でも、まだかすかに関節が動いていた。
「かなり大きく生命力も強い。何より凱王軍すら飲み込んでしまうという事は凱王とはまた別の勢力と見た方が自然だろう」
「第三の勢力?」
ルシルの問いにうなずく。
「私たちと凱王、そして虫……」
「今回は数も少なかっただろうが、虫ともなると中には飛んでくる奴も出てくるだろう。そうなればこのコームが陸続きではないとはいえ安心はできない」
「そうだよね」
「ただまあ、凱王に対しての備えという点では機能すると思うがな」
周りの者もそれには賛同する。
「そこでだ」
俺はこの辺りの地図を広げて説明を始めた。
「ブラッシュは放棄する。また凱王へ帰属する事もあるだろうが今はそれどころではない。戦力の分散は避けなくてはならないからな。それに、引き上げるに際しては住民の移送も認めよう。コームには町から出た者たちの家などが空いているから居住には困らないだろう。それに加えてこの状況でもまだ凱王へ忠誠を誓おうとする者がいたら、逆にブラッシュへ行ってもらっても構わない」
シルヴィアが地図を指し示しながら質問する。
「街道は整備できておりませんので陸路の移動は難しいと思いますが、海路を使用しますか?」
「船で足りるのであればそれでもいい。だが住民までとなると船の数が足りないだろう。何往復もという訳にも行かないだろうからな、船で移動できる者たちは船を使い、その他の者は護衛を付けて陸路を行くとしよう」
「判りました、そう手配しましょう」
「頼んだぞシルヴィア」
「はい」
シルヴィアの後にベルゼルが報告を行う。
「ゼロ様、レイヌール大陸からも間もなく増援が来る予定です」
「そうか。次々とこちらへ来てもらえるのは助かるが、それこそ船が足りなくなるな。造船所の建造はどうか」
「施設の拡張含め、こちらは順調に進めております」
「外洋の行き来に耐えうる船がもっと必要になるからな」
「おっしゃる通りでございます」
ベルゼルの発言中に大きな音を立てて扉が開いた。
「ゼロ君!」
開口一番、入ってきた奴が俺の名を呼んだ。