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敗残兵の報告

【前書きコーナー】

 今回から新章としました。

 虫の大群による襲撃から一夜明けた。

 コームの町は大陸から隔離された大きめの島になっている。


「結構地盤が固かったのかな。崩壊しなくてよかったね」


 ルシルはあっけらかんと言うが、確かにその可能性は否定できなかった。


「軟弱な土地だったらそうだったかも知れないが、その心配もあったから俺はただ地面を割るだけではなくてあえて脆い部分を作ってそこだけを壊したつもりだったんだけどな」

「でも虫に襲われなくてよかったよね。あの勢いだったら火でも氷でも追い払えなかったもん」

「確かにな。だがあの虫どもはいったい何だったんだ?」


 俺たちの中にその答えを持っている者はいない。

 えぐり取った裂け目はかなり大きなものだ。一番近いところでも百メートルはあるだろうか。俺たちは崖のこちら側で虫たちが襲ってこないか待ち構えるので精一杯だったが、結果として俺の作った谷を越えてくる虫はいなかった。


 船で逃げた者たちも戻ってきて、今は島になったコームの町に全員集まっている。裂け目の向こう、大陸側には虫に踏み荒らされた平地が広がるだけで、生きている者は誰もいない。

 凱王軍の一人たりともだ。


「ともかく、それほど町に被害が出ていなかったのはよかったと言えるだろう。結構な人数が沖合いの船に避難できていたのもな」

「うん。そこは流石、港町に住む人だね……あれ?」


 ルシルは裂け目の先、大陸側の平原を指さした。


「ベルゼルか?」


 見た目も薄汚れていて命からがら逃げてきたかのような姿の連中がコームの町に向かって歩いている。


「ウィブ、少し乗せてくれ。谷の向こう、大陸側に行きたい」

「橋ができるまでは仕方がないのう」

「済まんな」

「なあに」


 俺はウィブの背に乗ると鞍につかまった。

 ウィブは一つ大きく羽ばたくと、すぐに着地する。空を飛ぶと言うより大きく跳ねたという感じだ。


「大丈夫かベルゼル!」


 俺はウィブから飛び降りるとぼろぼろになったベルゼルに話しかける。


「ワタクシとしたことが不覚を取りました。動物や虫を操るは魔族の得意とするところ。それをしくじるとは……面目次第もございません」

「虫!? 虫だと!」

「はっ。クシィの町を包囲している所にワタクシも加わったのですが、動く骸骨(スケルトン)兵を繰り出してあと少しで攻め落とせるというところで、背後から突然大量の虫が襲ってきまして。中にはワタクシよりも数倍大きな虫などもおりましたが、何よりもその数です! 大地を埋め尽くすかのような大軍で、足の踏み場どころかその黒光りする集団が大地そのもののようにうごめいておりました!」


 ベルゼルは必死にその状況を俺に伝えようとした。

 俺も昨日の状況を知っているだけに、ベルゼルの報告には疑う余地も無い。


「それでお前たちはどうしたのだ」

「どうにか海に飛び込んで逃げられた者だけがこうしてここまでたどり着けたのです……」

「クシィの町はどうだ」

「あの町はもうだめです。虫に襲われて外壁も何も踏み荒らされてしまいました。再興させるよりは一から町をおこした方が早いくらいです」

「そうか……」


 そう報告したベルゼルの後ろに続く連中は、虫にかじられたからだろうか皆着る物のどこかが破れている。

 それに波にもまれたのだろう、装備もまばらで着の身着のままといった様子だ。


「ここも同じだ。虫の大群が押し寄せてな、凱王軍などひとたまりもなかった」

「そ、それでは……」

「どうにか谷を作ってな、町を陸から切り離して難を逃れたが」

「おお……」


 ベルゼルは驚きで言葉も出ずに切り立った崖になっている裂け目を見つめていた。

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