溶岩と海
俺は強化されたスキルで両手に巨大な氷を作る。
「Sランクスキル発動、凍晶柱の撃弾! この氷撃で大地の炎を凍らせるのだ!」
「えっ、なんで氷!? まだ虫だって全然減っていないのに」
「溶岩が町に流れていってもなんだからな! これで一気に冷却させる!」
俺が氷の塊を放つと溶岩に当たって一瞬で水蒸気となった。
「そんなくらいじゃ溶岩は止められないよ!」
「別に流れ出る溶岩を止める必要はない。だがその溶岩ごと凍らせて固めてしまうのだ!」
俺が言う通り溶岩が噴き出した形のまま、氷で造った彫刻みたいに固まってしまう。
「す、凄い……!」
急激な冷気で虫どもの動きも少しは鈍っただろうか。
「でもまだ奥からどんどん虫がやってくるよ! 凍っちゃったから溶岩の壁も簡単に這い上がってきちゃう!」
「だがここまで凍結できれば十分だ!」
俺は両手に炎を宿す。
「えっ、凍らせたのにまた炎!?」
俺は黙ってうなずき、凍った溶岩にまた炎を当てた。
「SSランクスキル、豪炎の爆撃を今一度食らえっ!」
俺の放った炎の塊が凍った溶岩に当たった瞬間弾け飛ぶ。
凍っている溶岩の噴水から大きな音がして、鏡のように輝いていた氷の表面にヒビが入った。
「凍った溶岩にヒビが……。町を囲うように噴き出していた凍ってる溶岩にヒビが伝わって行く……!」
ルシルの言う通り、町を半包囲するように噴き上げられていた溶岩の帯が一気にヒビ割れる。
「これで仕上げだ! SSSランクスキル発動! 地獄の骸爆!!」
「地獄の骸爆!? それは魔王のスキルなのに、私の魔力をゼロに注いだから!」
「ああ、爆炎スキルは俺に相性がいいらしいからな、頭の中で使い方が構築できた!」
俺の両手から激しい炎の塊が地面に突き刺さった。
その瞬間だ。
「大地が割れた!」
爆発と共に地面が爆発した。それは連鎖的に町を囲う帯となって広がっていく。
「が、崖ができている……町を大陸から切り離したっ! そこに海の水が流れ込んで……!」
更に溶岩が噴き出そうとしてた所に海水が蓋をする。
一気に煮立った海水が蒸発して高温の蒸気が辺り一面に広がった。
「虫も蒸されていく……。でもそうじゃなくて……」
「ああ」
俺はルシルが気付いた事に対してうなずてみせる。
「コームの町は突き出した半島にできた町だ。大地を溶かし冷気で凍結させ結晶化したところでもう一度熱を加える。衝撃も加えてな」
「それを帯状につなげて地面全体にヒビを入れたって事ね」
「そうだ。そして脆くなった地面が裂けてそこに海水が入り込む。まだ冷え切っていない奥深くの溶岩に海水が注ぎ込まれて一時的だが熱した海ができあがる」
「コームの町が岬じゃなくて島になっちゃった……。見てゼロ、虫が次々と海に落ちていくよ!」
「ああ。多少は飛べる奴もいるが水蒸気に蒸されてこの裂け目は超えられない。海に落ちた虫どもはあっという間に茹でられて終わりだ」
虫の大群は退く事を知らない。そのまま海に飛び込んでいく。
「あとは放っておけば勝手に消えてなくなっているだろうさ」
「海辺の生態系は大分変わっちゃっただろうけどね」
「近海の生物は棲み家が変わってしまうだろうな。それは悪い事をしたが……漁はまた考えよう」
俺は魔力を消費しすぎたからだろうか、脱力して座り込んでしまう。
「でもひとまず今日は、なんとかなったんじゃないかな!」
無理にルシルは明るく振る舞っていた。
俺を気遣って、なのかな。