大地を割る炎
巨大なそして高温の炎の壁がコームの町を遠巻きに囲うようにして広がる。
「虫が突っ込んでくる!」
ルシルが心配で俺の腕をつかんで離さない。
炎の壁に虫が飛び込む。ブチブチと弾けて燃える音と焼けた臭いが黒い煙となって立ち上っていく。
「それでも次から次へと……」
虫の群れは歩みを止めない。炎の壁だろうがお構いなしに突っ込んでくる。
「ゼロ、どれだけ火力があっても焼けた死骸の上を別の虫が這い上がって進んでくるよ!」
「それが炎を消す……だが、町の人々の力で強化された王者の契約者なら!」
俺は両手から更に炎を噴き出させ炎の壁を高く、熱くした。
地面も熱せられて赤く光り輝く。
「勇者よ、それでも怯むどころかまだまだ押し寄せてくるようだのう」
ウィブが熱にさらされながらも高度を保って俺のスキルを援護してくれる。
「ウィブが俺の考え通りに動いてくれているから虫たちの侵攻も抑えられているんだ」
「だがのう……」
「お前だとて熱かろうに。それでも我慢してくれているのだ、感謝するぞ」
「ある程度は距離があるからのう」
「でもさ、熱い空気が登ってくるでしょ?」
ルシルもウィブをねぎらってくれた。
「これしきの熱、ヴォルカン火山に比べればまだ涼風程度だからのう」
「はっはっは、火山には流石に俺の手だけでは作れないがな」
俺は更に魔力を注いで炎を強める。
「ルシル、頼めるか」
「いいよゼロ、私の魔力……使って!」
ルシルは俺に抱きつくと、俺の首に噛みつく。
歯を立てないようにしながらも俺の柔らかい皮膚を通して魔力を注入してくれる。
「うっく……ルシルの、魔力……凄いなこれは!」
俺にも角が生えそうになるくらい魔力がみなぎってきた。
その力を炎に換えて大地を、そして虫どもを焼く。
「このまま押し戻せ……!」
熱いだけのものとは違う汗が出てくる。
俺は力を入れすぎて噛みしめた奥歯から血が流れ出た。
炎を出し続けている腕の血管も何本か切れて血が噴き出す。
「ゼロ!」
炎は明るく白く激しく輝く。
地面の奥で何かが割れる音が混じって聞こえた。
「来たか!」
俺は炎の放出を止める。
「え、いいのゼロ!?」
「ああ」
俺が炎を出さなくなった事で炎の壁が少し低くなっていく。
そこへ虫が押し寄せ、燃えながらも突破しようとしていた。
「このままじゃ超えられちゃうよ! 魔力尽きちゃったの!?」
「いや……まあ見ていろ」
虫が燃えた上に別の虫が乗っかり燃えていく。だがその一匹一匹の犠牲によって炎の壁が小さくなっていく事も確かだ。
「危ないよゼロ! ……えっ!」
大地が茹だっている。ドロドロに溶けた大地が煮立ったお湯のようにボコボコと泡立っていたのだ。
「ま、まさか……」
ルシルの驚きと真っ赤な噴水が同時に起きた。
「溶岩が……噴き出した!」
「ああ。大地の下には溶岩が巡っている。何度か地面を割って判った事だが、掘りやすさの有無はあれども根深いところに行けば溶岩が流れているはずだ。俺はその溶岩の流れを地表に呼び込むため炎の壁で地面を焼いて溶かして穿ったに過ぎない」
流石に噴き出す溶岩で虫の大群も超える事は難しい。
「でもこれだけ溶岩が噴き出しちゃうと、町にも……」
「だからそれなりの距離を取った。これだけ離れていれば行けるだろう」
「行けるって……何が……」
俺は両手に氷の塊を生成し始めた。