西に広がる黒い塊
俺は上空からワイバーンのウィブに乗ったまま凱王軍に攻撃をかける。
敵の投石器が届かない高さから一方的にだ。
「勇者よ、あの辺りの敵兵には攻撃せんのかのう?」
俺が直接攻撃をした部分に混乱が生じるのは当然だが、それ以外の所で敵陣が崩れている場所もあった。
「ああ、俺の攻撃とは違う混乱を起こしているからな、あれはアガテーがいろいろと仕掛けてくれているのだろう。そうだなルシル?」
俺は思念伝達でアガテーと連携を取っているルシルに確認する。
「そうだよゼロ。アガテーが身を隠しながら混乱に乗じて敵の足止めをしてくれているからね」
「ルシルがアガテーと思念伝達をしてくれるからな、同士討ちにならずに済んで助かるぞ」
「でもそろそろ隠れているのも難しくなってきたみたいだから、一度離れるって」
「そうか。南にある森の方へ向かうように伝えてくれ。俺は北の方から包囲するように攻撃を仕掛けるからな」
「判った」
ルシルはアガテーに思念を飛ばす。
アガテーの反応があったようで、ルシルは俺に向かってうなずいてみせた。
「よし、今一度攻撃を始めるとするか!」
俺は敵陣の北側に向かってスキルを発動する。
「Sランクスキル、風炎陣の舞! 豪炎よ敵を包み込め!」
俺の放った炎の渦が敵陣の北で暴れ回った。
その様子を見て凱王軍は北へ散る事はなくなる。
「アガテーは南の森に到達したか?」
「うん、もう大分前から逃げ終えたみたいだよ」
「ならば敵陣と森の間も風炎陣の舞で塞ぐとしよう!」
俺は敵陣の南側にも炎の渦を作った。炎は舞い上がり壁のように立ちはだかる。
「これで敵は北にも南にも行けなくなった訳だが。東はコームの町、西は奴らが来た所……。さて、どちらに動くかな」
敵陣からは岩や矢が飛んでくるがウィブの遙か下の方までしか届かない。
「無駄な抵抗を続けるものだ。Rランクスキル、氷塊の槍。あの投石器を打ち砕け」
俺は冷静に氷の槍を投石器へと投げつける。
狙い違わず投石器へと突き刺さり、その衝撃で氷の槍ごと爆散した。
「まだ何台かあるみたいだが、それを打ち砕けば敵も戦意を喪失してくれるかな」
「どうだろうね……。北と南を塞がれた時点で、戦う気があるなら東の町に向かっているだろうけど、それも無いからね」
俺は続けて投石器を破壊しにかかる。
「これであらかた攻城兵器は潰したつもりだが」
「勇者よ!」
「うん?」
ウィブが西の方を気にしていた。ワイバーンの勘というやつだろうか、俺には検知できない何かが知らせたようだが。
「うーん……」
俺は目をこらして西の平原を見る。
「おお」
西の地平線ぎりぎりの所に平原を覆うような黒い塊が見えた。
その塊が徐々に広がってくる。
「ゼロしゃん! あの黒いの!」
一緒に乗っていたトリンプが地平線の黒い帯を指さす。
「これは、大地を埋め尽くす程の……」
流石の俺もこれには驚きを隠せなかった。