伝令からの連絡で知る敵軍
ブラッシュの町の整備を行っているところで早馬がやってきた。
「どうしたセシリア。コームで何かあったのか」
馬に乗っているのはセシリアだ。コームでベルゼルと共に町の整備を行ってもらっているはずだ。
「勇者ゼロ、ブラッシュは落とせたようだな」
「ああ。それでどうした」
セシリアは走る馬の手綱を引いて速度を緩めると俺の目の前に降り立った。
「トライアンフ第八帝国が軍を率いて攻め寄せてきた。コームにいる兵だけでは軍に対抗できないのだ!」
「何日持ちこたえられそうか」
「俺が出てきたのは昨日の朝だ。その頃には町の外に陣を敷いていて、攻勢に入れば一日足らずで町の壁にまで押し寄せてくるだろう。コームからここまで一日半馬で駆け通しでようやく着いたからな、今はもう戦いが始まっているかもしれん」
「ベルゼルが押さえてくれていそうか」
「交渉含めて引き延ばしはすると言っていた。だがそう数日も軍を押しとどめてはいられないだろうし、こちらが手薄な事を悟られたらすぐに攻め寄せて来る事は間違いない」
俺は今の状況でどうやって敵を追い払えるかを考える。
「傘下の辺境三国が攻められているという話は宗主たるトライアンフに伝わってもおかしくない。それにトライアンフを統べる凱王は、思念体とはいえ俺と直接戦っている訳だからな」
「凱王と戦っただと!」
セシリアは俺の言葉に目を丸くする。
「どうにか追い払えたがな、それでも俺たちの動きは敵にも知られていると思った方がいい」
「だろうな……」
セシリアは不眠不休で馬を操っていたのだろう。少し意識が飛んで膝が崩れそうになる。
「おっと」
俺は倒れ込みそうになるセシリアを抱きかかえて支えた。
「……済まんな、婿殿」
「気にするな。アガテー、セシリアを兵舎で休ませてやってくれ」
「判りました。セシリアさん、こちらへ……」
「あ、ああ。済まない」
荒い息をしながらセシリアはアガテーに誘われて兵舎へと向かう。
「それでゼロ、どうする?」
話を聴いていたルシルが腕を組みながら尋ねた。
「どうにか追い払わなくてはならないだろうが……。距離が問題だな」
「そうね。ゼロが前に手配していた大船が間に合えばいいんだけど」
「どうだルシル、思念伝達で沖合いの方を調べてもらえないか?」
「いいけど、沖合いって言ってもどこまで思念を飛ばすかで時間もかかるから……」
「悪いな」
「待ってて……、違う、これじゃない……あの方向は意識を持った者がいない……」
ルシルは目を閉じて沖合いの船を思念で探そうとする。
「どうだ」
「ん……、ちょっと待って……あ!」
ルシルは目を開けて東の方を指さす。
町の建物がひしめき合っているその先は港、そして海があるという事だが。
「見つけた! よかった!」
ルシルの声に反応するかのように、沖合いで雷のような音がした。