器の大きさ
俺の剣は巨大な頭だけ飛び出しているラスブータンの歯で止められている。
「ゼロ!」
ルシルが指先から電撃を撃ち出すがラスブータンの頭に当たるか当たらないかといったところで魔力を吸収されてしまう。
「ブフフ、無駄でふよお嬢はん」
俺の剣を咥えながらラスブータンは頭だけの状態で粋がる。
「全身埋まって身動き取れないというのに大した自信だな」
「こんな穴に埋められようが拙僧への攻撃はまったく効かないのでふよ!」
自信満々で俺たちを見るラスブータン。
「まあお約束だがやってみるか。ルシル!」
「うん!」
俺がルシルに目配せをする。
ルシルは判ってくれているようだ。
「トリンプ、いるか!?」
さっきまでトリンプは俺の外套をつかんでいたがラスブータンの攻撃が始まる辺りで一時的に隠れていたのだろう。
それもあって俺はラスブータンの攻撃を気にせずに聖魔解放を繰り出せたというのもあるのだが。
「は、はいっ、ゼロしゃん!」
少し遠い建物の影からトリンプが出てきてルシルの隣まで走ってくる。
「トリンプは魔力スキルを使えるか?」
「す、少しなら……」
「よし、それならこの大きなぶよぶよ頭にお前のありったけの魔力で攻撃してくれないか?」
「え、いいの?」
「大丈夫だ。吸収はするが反撃はしない。身体の自由は奪っているからな、さっきみたいな雷撃に転換する程の事はできないはずだ」
「うん!」
俺の指示に従ってトリンプは両手から炎の塊をラスブータンの頭に叩き込む。
「いいぞ! その調子だ!」
「うん!」
トリンプは次々と炎をラスブータンへぶつけた。
「あれ、でもゼロしゃん、ぼかーんっていかないよ?」
トリンプが言うように炎の塊はラスブータンの頭に当たる直前で消えてしまう。
「いいのよそのままやって」
ルシルがトリンプに促す。
ルシルも両手から電撃を放射してラスブータンに当てていく。
「ブフフ、効きまへんよぉ~」
二人の魔族が放出する攻撃をことごとく吸収していくラスブータンは、余裕の笑みを浮かべていた。
「だからお約束だと言っただろう」
俺は咥えられたままの剣に力を込める。
「残念~! これ以上剣も動きまへんよぉ~」
口に咥えながら嘲るように笑うラスブータン。
「知っているさ。だから俺は押しもせず引きもしない」
「ふぁっ!?」
「ただ魔力を注ぎ込むだけだ! おあぁぁぁ!」
俺は覚醒剣グラディエイトに魔力を注入する。
「もう一度、今度はお前が直接喰らうんだな! SSSランクスキル発動! 聖魔解放っ! さあどこまで吸い込めるか勝負と行こうか!」
俺の魔力が剣へと注がれていく。
その魔力はラスブータンの魔血石へと吸収される。
ルシルの電撃やトリンプの炎も同様にだ。
「凱王様からいただいた魔力吸収の力、これひきの事ではなんと言う事もないでふよぉ!」
ラスブータンの顔は余裕に満ちている。
「一万の魔術兵が持つ全ての魔力を吸収してもまだ腹の減った状態なのでふよ! それをたかが三人程度で!」
「ほう、それは凄いな! だが俺とて万夫不当の勇者と言われた男だ! 一万二万程度で太刀打ちできるような力じゃないぜ!」
「口先だけなら何とでも言えまふなぁ!」
「それをこれから教えてやろうと言うのだ!」
トリンプの放つ炎が消えた。
「ほらほら、お仲間はんはもう魔力切れのようでふよぉ! そちらのお嬢はんももうふぐでふかなぁ? ブフフ!」
「ゼロしゃん、ごめんなさい……トリンプもう炎出せない……」
「いいさよくやってくれた! 助かったぞ!」
「ふにゃぁ」
トリンプはその場でへたり込んでしまう。
「ルシルも下がってくれ。トリンプを頼む」
「私はまだ行けるけど、いいの?」
「ああ。大丈夫だ」
俺は横目でルシルたちが後退していく所を見る。
「おやぁ、よいのでふか?」
「俺の剣を咥えたままで器用にしゃべるもんだな」
「今更でふよ、それ」
「だがそのお喋りも終わりにするか」
「ほへ?」
ラスブータンは間の抜けた返事をした。
「お前の底は見えたからな!」
俺はそう言い放ってさらに力を込める。
剣と歯のこすれる音が聞こえた。