敵の完全防御
俺の振り下ろした剣がラスブータンの膝を斬りつける、はずだった。
「くわっ!」
「ゼロ!」
激しい火花を散らして俺の剣が弾かれる。
ルシルも驚きの声を上げた。
「なんだこれは……」
どうにか剣は取り落とさなかったが、ラスブータンの展開した鉄の板を俺の剣が斬り裂けなかったのだ。
「素晴らしい! 流石は完全無欠の究極防御! 魔力攻撃は魔族を溶かして造った魔血石で吸収! 物理攻撃はその魔力から生成した無敵の壁で弾き返す! これで拙僧は無敵、敵無しぃ!」
俺の十倍はあろうかという巨大な肉塊を醜く揺らしラスブータンは大喜びしている。
「そうか、そういう事か」
「ゼロは判ったの?」
「ああ、あの鉄板を見てみろ」
「ゼロの剣を弾いた鉄板……あ」
ルシルも気が付いたようだ。
ラスブータンの膝を防御していた鉄板は虹色の薄い魔力の膜に覆われていた。
「あれって円の聖櫃に似た光みたい」
「そうだ。効果としては似たようなものかもしれないな」
「じゃあ魔法も剣も攻撃が効かないって事じゃ……」
「さあてどうしたものか」
俺はルシルをかばってゆっくりを後ずさる。
「おやあ、逃げるおつもりか? ブフフ……それは許しませんよぉ! この凱王様からいただいた無敵の力、今まで使う事を躊躇していましたがそれも愚かな事でしたよぉ! なんせこんなすがすがすがすがしくて、きもちもちもいい~!」
ろれつの回らなくなったラスブータンの言葉が俺の記憶を呼び覚ます。
「凱王、だと」
ラスブータンの拳が俺めがけて振り下ろされた。
「仕方がないな!」
俺はラスブータンの攻撃を無視して地面に剣を突き立てる。
「SSSランクスキル聖魔解放。俺の魔力を変換させる。さあ存分に味わえ!」
俺の全身が激しい光に包まれてその光が覚醒剣グラディエイトを通して地面へと吸収された。
「なあに無駄な事を! ブフフ、潰されちゃいちゃいちゃいなさいいぃ!」
ラスブータンの拳が俺の頭に届こうとした時、ラスブータンの足下が爆発を起こす。
地面が大きく破裂してそこから無数の瓦礫がラスブータンを襲う。
足下が爆発した衝撃で身体をのけぞらせたラスブータンはどうにか体勢を立て直そうとした。
「こんな攻撃、拙僧には痛くもかゆくも痛がゆくもくもくも……」
「瓦礫のつぶてじゃあ効果がないのは判っているさ」
俺はバランスを取ろうとして両腕を振り回すラスブータンを見上げる。
「わっふ!」
地面から吹き上げる石つぶてがなくなった時、それまでラスブータンの巨体を押し上げていた勢いもまた消えた。
「と、いう事は……」
「そうだ、今できた大穴にお前の身体がすっぽり入るって事だ」
「ひゃ!?」
俺が聖魔解放で開けた大穴にラスブータンの身体がはまる。
その上を吹き上げた瓦礫が落ちてきて埋めていく。
「地面に頭だけ出ている姿は滑稽だな。頭一つでも俺の背と同じくらいの高さというのもどうかと思うがな」
俺は地面に埋まって身動きの取れなくなっているラスブータンの、そのぶよぶよした頭を見つめていた。
「ぐっ、こんなことで拙僧が……」
「もういい黙れ」
俺はラスブータンの頭に剣を振り下ろそうとする。
「無意味!」
ラスブータンは地面から出ている頭全体を鉄の板で覆った。
「そんな事もできるのか」
だが俺はラスブータンの開いた口に剣を突っ込む。
「おおっと、口の中まで鉄板で守られているとはな」
「ブフフ……」
ラスブータンは俺の剣を歯で挟んだ。
「まるで爪楊枝みたいだな」
完全防御がこうも厄介だとはな。相手に使われる側になるとよく判った。