魔力暴走の光
ラスブータンは瓦礫の中に埋まっている。俺は蹴り上げた足をゆっくりと下ろした。
「ブラッシュの国もこれで抵抗できなくなった、となればいいんだがな」
「でもさゼロ、ここまで破壊しちゃうと建て直すのも大変じゃない?」
「壊したと言っても壁の一部といくつかの建物だろう? それくらいはどうという事もないさ」
「建物としてはね」
ルシルにしては珍しく言いよどむ。
「町の人からするとどうなるのかな、って」
「ルシルにしては占領後の民を気遣うなんて……。成長したなあ」
俺はルシルの頭をなで回す。
「ちょっ、やめてよ! 私は別に人間がどうなろうと関係ないけどさ、壁から何人かは魔族の人たちも助けられたし」
「そう言って、素直じゃないなあ」
「もう! 頭をこねこねしないでよぅ!」
何度か話をしていたからだろうか、ルシルの中にも人に対する思いやりというか情けみたいなものが芽生えてきたのかもしれない。
力至上主義の魔王の頃には考えられなかったものだ。
とはいえ、その頃の姿は今と違うし、治世も俺は詳しく知っている訳でもないのだが。
「そうだな、いつもの通りと言えばなんだが残りたい者は残っていいと思っている。去りたい者は去って構わないし、敵対する者は排除する。それだけだ」
「人民としては為政者が変わったとしても今の生活が維持できるならそれでもいいと思っている?」
「生きる事が目的ならそれでもいいと思っている。俺としては歯向かってこない事が第一だからな。敵対するからこうしてその根本を潰しに来なくてはならない羽目になるんだ。面倒な事この上ない」
「そう言うけどさ、だったら引きこもって向かってくる奴だけ追い払えばいいと思うんだけどなあ」
「俺は安心して余生を暮らしたいんだよ。いつまでもどこからか攻めてくる事を心配し続けるなんて……考えただけでも気持ちが休まらないって」
「そんなもんかなあ」
「そんなもんだよ」
俺とルシルがそんな話をしていると、瓦礫の中から声が聞こえてきた。
「お楽しみの所お邪魔しますけどね……」
「なんだ、まだ息があったのか」
少なからず俺の中に不気味に思う気持ちが芽生えた。
「あれだけの蹴りを受けてまだ生きていたとはな」
「くっふっふふ、それしきの事で拙僧を亡き者にできたと思われてはこのラスブータン、悔しさのあまり地獄へも行けずに戻ってくるしかありますまいて」
瓦礫の中から這い出したラスブータンがまた懐に手を伸ばす。
「百人、千人では太刀打ちできないとなればですね……!」
ラスブータンは地面に両手を付ける。
その手には魔血石が握られていた。
「拙僧の声に応えよ……。いにしえより伝わりし暗黒にして邪悪の魔人、ブラッディ・ブラッシュよ!」
ラスブータンの全身が光り輝き始める。
「な、何よこれ!」
俺は驚くルシルをかばうように抱きしめた。
ラスブータンはまばゆい光に飲み込まれて、その光も段々と大きくなっていく。
「奴め、奪った魔力を放出したか!」
俺の予想通り、ラスブータンの身体を素体として魔力が集約されていった。
そしてその光が徐々に形を成していく。
「ぐふふふふ……」
光の中心から不気味な笑い声が聞こえてきた。