怪僧の専横
ラスブータンと名乗る白衣の男が建物の屋上で俺たちを見下ろす。そのラスブータンに放った氷塊の槍がラスブータンの目の前で弾け飛んで消えてしまった。
「無効化……か」
俺は嫌な感覚に襲われる。
「まさかお前」
「そう!」
俺の問いにラスブータンは気持ちよさそうに答えた。
「拙僧の持っているこの宝珠にて全ての魔力は吸収されるのです!」
「魔吸石か!? いやそれではここまで瞬間吸収はできないはず」
「よぉくご存知ですねえ! これは魔血石! 敵対する魔力であっても瞬時に吸収、格納できてしまう奇跡の石なのですよぉ!」
「魔血石だと……」
ラスブータンは得意になって手にした石の事を話す。
「そして拙僧の力となった魔力は中性魔力として拙僧が使う事も可能なのですよ、たとえ元があなたの魔力だったとしても、ねぇ!」
ラスブータンは魔血石を掲げて呪文を唱える。
「さあ神による天罰のお時間ですよぉ!」
にわかに大気が震え始め空中から電撃がほとばしった。
その電撃は空気中を伝って俺の剣へ落ちる。
「いってぇ!」
俺の持っていた剣に電撃が落ちたからまだ痛いで済んだだろうが、これがルシルやトリンプに落ちたらただでは済まなかったかもしれない。
「こんな奴が宰相として王無き国を預かっているとはな……」
「ゼロ様、こればかりはブラッシュ国民として謝罪します」
「バル……」
「確かに奴、ラスブータンの技術は我が国の発展に必要な物でした」
言われてみれば先の海上戦で火の玉を放ってきた者が多数いて、こちらの船にも軽くない被害が出たものだ。
「魔血石を使って魔力攻撃を行う、か」
「はい。それだけではなく開墾にも大いに役立っているものだったので、国王様もある程度はそのお力を有効に活用されていたのです」
「それで壁の魔族か?」
「いえそれは違います! 国王様が外征なさってからすぐ、ラスブータンが留守居役として国政を担っていたのですが、その権力を押さえるものがなくなった時……暴走が始まったのです」
「暴走だと!? お前たちはそれを知って止めなかったのか!」
バルは目を伏せてうなずいた。
「初めはラスブータンの専横に反対する者もいたのですが、反逆者や謀反人として始末されていく内に誰も声を上げなくなったのです」
我が身かわいさで自分が犠牲にならないのであれば他人を傷つけても構わないと言うのか……。
「悪逆非道を止める事ができなかった俺たちも同罪です……。ですが止められなかった……。ゼロ様、お願いです……俺たちはこのあとどうなってもいい! だからあの怪僧を倒してもらえないでしょうか!」
「バル……」
バルが涙ながらに俺へ頼み込む。
そのバルの頭上に雷が落ちた。
「ぐわぁぁ!」
「困りますねぇ、百人隊長ともある方がこのような外部の無法者に国の命運を託そうなどと」
ラスブータンの雷撃がバルを襲ったのだ。
苦しむバルの身体に次から次へと雷撃が命中する。その度にバルの身体が大きく跳ねた。
「拙僧にはそなたらの魔法は届きません。ですが拙僧が放つ天罰は誰にも等しく与えられるのですよ! はーっははは!」
「くっ……」
「どんな魔法も無駄です。そなたもそこのぼろ雑巾のようにして差し上げましょう! これも神の慈悲です!」
ラスブータンは更に雷を生成させて俺に向けて解き放った。