白衣の宰相
俺とブラッシュの町の守備兵との戦力差は歴然だ。
壁を突破してからは守備兵や老人となった予備役の軍人たちが相手。遠征に出なかったか出られない理由があったか、どちらにしてもそれなりの戦闘力しかなかった。
「強い兵士を置かない理由は完全なる魔力防御の壁とでも言う事か。だがその壁も魔族を塗り込めて防壁代わりに使うなど……他人を搾取してその上で安穏と暮らすを是とする、その心根が気に食わん!」
俺は押し寄せる敵兵を一人、また一人と斬り伏せていく。
「ルシル! 壁から魔族を剥ぎ取る事はできるか!」
「何人かはもう死んでいるみたいだけど、息ある人から助けるよ!」
「頼んだ!」
「任せて!」
俺は壁の裏側から埋め込まれている魔族の救出をルシルに託す。
そのルシルの仕事を邪魔しようとするブラッシュの守備兵たちを俺が排除する。
「ゼロ様! 待ってください!」
後ろからバルたちが駆け寄ってきた。
「俺に何を待てというんだ! この魔族の扱い、断じて許さん! そして何より俺たちに向かって攻撃を仕掛けてくる、その時点で殲滅は確定しているのだぞ!」
「俺たちとてブラッシュの民。これをよしとは思っていませんが、こうするしかなかった……」
「何がこうするしかだ! される側が喜んでやられているとでもいうのか!」
俺の怒りで周りの兵たちの動きも止まる。
トリンプは俺の外套をつかんで離さない。
「魔族が魔力に優れているからといってこのように壁に塗り込め道具として扱うという事のどこに正義がある!」
トリンプはこの状況から逃れるため町を出たのだろう。
それを兵士たちが捕まえようと追ってきたという事か。
「あなた様のおっしゃる事はごもっともです! ですが王の遠征に先立ちこの壁を提案したのは宰相なのです」
「心ある王ならばなぜそれを許す!」
俺がバルに食ってかかる所に別の方向から声がした。
「国王陛下は拙僧のお言葉をよしとしませなんだ。ですが陛下が遠征先で捕らえられ主たる戦力も攻め込んだ地で討たれたとなればもはや守りに徹する意外にこの国を守る術はございますまい?」
どこぞの建物の屋上に立っている男が俺たちを見下ろしている。
白衣をはためかせて司祭の帽子を被っているその男は、病的に落ちくぼんだ目を細めて戦況を見守っていた。
「遠征軍は敗れ同盟でもあるコームも陥落したと聞けば、ここは我が国を外敵より護り陛下の帰還をお待ちする間はこのラスブータン、身命を賭して防備に努めるのみ! お国のためとあれば国民はその能力を活かす事こそが何よりの喜びであろ!」
ラスブータンは両手を天へ向けて恍惚とした表情で叫ぶ。
「何をほざいているか。Rランクスキル氷塊の槍!」
俺は指先から氷の刃を白衣のラスブータンに放った。
だがその氷の刃もラスブータンの目の前に壁があるかのように弾けて消える。
「効きませんよ?」
ラスブータンが不敵な笑みを浮かべた。