力押しで壁を突破したものの
俺はブラッシュの町を守る魔力吸収の壁を見る。
軽くノックしてみるが、確かにこれは物理的に存在する壁だ。幻影という事ではない。
「トリンプ、いいヒントだったぞ!」
「ゼロしゃん!」
「おおーっ!」
俺は腰に差していた覚醒剣グラディエイトを抜き払うと、壁に向かって斬りつけた。
「Sランクスキル発動っ! 重筋属凝縮! 俺の肉体よ最大の限度を超えて更に力を生み出す源となれっ!」
スキルを発動させた俺は全身の筋肉が大きく膨らみその筋肉が圧縮されて密度が高くなる。
「ゼロしゃん、どうしちゃったの……」
「簡単に言うとだな」
俺の剣は数十倍に威力を増した筋肉の力でブラッシュの壁を斬った。
いや、斬ったと言うよりは打ち砕いたと言うべきか。
振り下ろした剣が触れるやいなや、壁が細かな粒となって弾き飛んだのだった。
「壁が……爆発した!」
トリンプの驚きも当然だろう。
剣で斬ったはずなのにその力が強すぎて斬られた壁がただ切れるだけではなく、その勢いで弾けたのだから。
「覚醒剣グラディエイトだったからこの力にも耐えられた訳だが……さて」
壁が弾け飛び大きく亀裂が入る。
俺が軽く蹴りを入れると広範囲にわたって壁が崩れた。
「魔力が吸収されるのなら物理で破壊してしまえばいいんだよ」
俺は崩れた壁から町の中へと足を踏み入れる。
「なに……!」
町の中に踏み込んだ俺は内側から壁を見て知った。
「なんて事をしやがるんだ!」
俺は壁の中から飛び出している物を見る。
トリンプはその光景を見て息を呑んだ。
「壁に……魔族が!」
俺は壁に埋め込まれた魔族たちを見る。
壁の中から顔や手が出ていて、その頭には魔族特有の角が生えていた。
「俺が崩した壁にもいたのか……」
瓦礫の中に倒れていた魔族を抱えて起こす。
「大丈夫かあんた」
やせ細った魔族の娘は俺が壁を壊した事で壁から抜け出る事ができたのだろう。
「あ……ああ……」
「Sランクスキル重篤治癒、かの者を癒やしその活力の源を精気で満たせ!」
俺の手から出た治癒の光が魔族の娘に注がれる。
「あ、ありがとう……ございます」
「お前たちは壁に……」
「はい……魔族は敵性魔力から町を守るための受け皿として……壁に……」
「なんて事をしやがる……魔族を魔吸石の代わりにしたとでもいうのか……」
俺はあまりの憤りに歯ぎしりを止められなかった。
「どんな秘術を使ったのかは知らないが、魔力に優れている魔族をこんな形で道具みたいに使うなど……」
壁の内側からだとそれがよく判る。
魔族は生かさず殺さず。身体の一部分が壁から飛び出しているのは、死なない程度に食べ物を与えているからなのだろう。
俺は魔族の娘を壁により掛からせると立ち上がった。
「ゼロしゃん……」
トリンプが俺を見上げる。
トリンプにしてみれば自分も同じように扱われる可能性があったと気付いたのだろう。
俺はそんなトリンプの頭をなでてやった。
「ゼロ!」
ルシルが壊れた壁から中に入ってきた。
「ルシル」
「ゼロ、周り!」
俺たちを囲むように、残り少なくなった守備兵や老人となった予備役の兵が集まっている。
「お前ら……ここまでして町を守ろうとするその気持ちはたいしたものだが」
俺は敵兵に相対するようにルシルとトリンプの前に出た。
敵兵は俺に怯えているのかもしれないし久し振りの戦いに武者震いしてるのかもしれないが、戦い慣れしていない様子が見える。
「だが容赦はしない。こんな、こんな外道な行いをしてまで町を守りたいとはな! 人の命を道具のように扱うその所業、断じて許す訳にはいかん!」
俺は剣を一振りすると、一番近くにいた兵士の首が飛んだ。
「もういい、お前らはここで滅びろ」