魔力吸収の壁
ブラッシュの町を守る壁が俺のスキルでも破壊できなかった。
「それどころかあの爆炎を吸収した……とでも言うのか」
こんな事は初めてだ。
「なら試しに」
俺は右側にあった大木に向かって豪炎の爆撃を放つ。
俺の手から放出された炎の塊は木に当たって大爆発を起こす。木は爆散してその辺りの地面ごと大きく削り取られた。
「普通、こうなるよな」
「そうすると超強力な魔法障壁でもあるって言うのかな」
「ルシルの言う通りかもしれない。俺のスキルを吸収するとは。ルシル」
「なに?」
「お前も一発ぶっ放してみてくれよ」
「いいけど……えっと、氷塊の槍!」
ルシルは指先から氷の尖った塊を放った。
「なんだ、氷塊の槍ってRランクスキルだろ?」
「そうよ。でもほら」
ルシルが示すように、氷塊の槍の氷が町の壁に当たるか当たらないかの所で消えてしまう。
「魔法が効かないのかそれとも……」
「ゼロしゃん! 矢! 矢が飛んでくるよう!」
俺たちがいろいろと試している間にも容赦なく矢の雨が降り注ぐ。
「心配するな、命中する奴だけは撃ち落としているからな」
俺は飛んでくる矢の中から当たりそうな奴だけ狙いを絞ってはたき落とす。
「そ、そうだけど……」
それでもトリンプは心配そうに俺の後ろへ隠れていた。
「そのまま俺の後ろに隠れていろよ」
俺はトリンプを背中にかばいながら壁に向かっていく。
「ゼロ、やるの?」
「試しにな」
俺は壁に近付くと、もう矢の命中範囲には入らない。
「弓なりに壁の内側から飛んでくるからな、逆に壁へ来れば矢は届かないって事だ」
「でも……」
俺はまだ背中に貼り付くトリンプを安心させようとする。
「上から来るよう!」
トリンプが叫ぶ。
矢は飛んでこないが壁の上から守備兵が落とす石はそのまま俺たちに当たる。
「落石か。石ならどうにかなるか。これが煮えたぎった油だったら俺も困っただろうがな」
「ゼロしゃん、その……油だよう!」
壁の上から湯気の出る液体が撒かれた。
「だが、物理的な攻撃なら……SSSランクスキル円の聖櫃! 展開しろ完全物理防御の壁よ!」
俺は円の聖櫃を発動させる。
俺たちの周りに魔力の透明な壁ができて、消えた。
「なっ! 円の聖櫃が消えただと! SSSランクだぞ!」
無効化させるにはそれ相応のランクが必要になる。SSSランクを打ち消すのであれば、それ以上のランクか特殊な対抗スキルのはず。
「SSSを超えるランクなんて聴いた事もない。それどころか俺くらいしかSSSを扱える奴は見た事がないというのに……」
「ゼロしゃん!」
トリンプの叫び声で俺は我に返る。
「捕まれトリンプ!」
俺はトリンプを小脇に抱えてスキルを自分に発動させた。
「Sランクスキル超加速走駆! 壁に沿って移動するぞ!」
「うん!」
トリンプが俺にしがみついて離れないようにと頑張る。
俺は超加速走駆を発動させて落ちてくる油から間一髪で回避した。
「自分にかかるスキルは発動できるが、そうなると壁に当たる攻撃スキルや効果範囲が壁にぶつかるようなスキルは消えてしまうのか」
俺はトリンプを抱えながら落ちてくる油を避けつつ、この壁への攻略法を考える。
「えいっ!」
「何をやっているんだトリンプ」
俺に抱えられながらトリンプは壁に向かって爪を立てた。
「少しだけど、壁を削ってるの」
「壁を……削る」
魔力を吸収する無敵の壁。その攻略法が俺の頭の中に浮かんでくる。
「やって……みるか!」