必死の抵抗力
俺は降り注ぐ矢の雨の下で完全物理防御の円の聖櫃を解除した。
「ゼロしゃん! これじゃあ……」
「ずっと防御していた判った。相手はそれなりに人数を揃えているが精度が低い」
「それってどういう事?」
トリンプの問いにルシルが俺の代わりに答えてくれた。
「矢を雨のように降らせるという事は、点ではなくて面で攻撃をしようとしているのよ」
「うん」
「対して私たちはこの人数。これが百人や千人ならある程度の効果は期待できるけれど、私たちくらいの人数では矢が無駄になるだけ」
ルシルが言うように、弓なりに飛んでくる矢は大量ながら命中するような物は少ない。
「当たりそうな奴だけだったら私でも簡単に打ち落とせるわ」
ルシルは指先から電撃を放ち、自分に当たりそうな矢だけに命中させる。
「だってそれじゃ……」
「だからだよ、バルたちには後方へ下がってもらっている」
「え?」
トリンプが後ろを振り向くと、射程外に待機しているバルたちの姿があった。
「壁越しに撃っているんだ、狙いなんてまったくないんだよ。それに高く撃つという事はそれだけ距離は延びない。バルたちまでは届かないって事だ」
「そ、そうなんだ……ぴゃん!」
トリンプの目の前に飛んできた矢を俺が手刀でたたき落とす。
「三人に対してこの矢の量は、ちと無駄すぎるな」
俺が周りを見渡すと、確かに地面はハリネズミのように矢が突き刺さっているものの俺たちに当たるような物はない。
「そろそろこれも飽きたところだな!」
俺は左手を前に出し右手を後ろに回して拳を作る。
「根源たる力の泉よ、我が拳に宿りて爆炎の渦を生まん」
壁に向かって精神集中を始めた。
右手が熱を持っていくように感じられる。
「SSランクスキル発動っ! 豪炎の爆撃っ! 立ちはだかりし壁をその炎で打ち砕けっ!」
振り上げた右拳を正拳突きの要領で突き出すと、拳に取り巻いていた炎が町の壁に向かって吹き出した。
「ゼロしゃん、しゅごい……!」
熱風に煽られてトリンプが吹き飛ばされそうになるところをルシルが支える。
「あ、ありがとうルシルしゃん」
「別に、あんたが転がってもいいんだけどさ。周り、転んだら危ないでしょ」
「うん!」
俺の放出する熱風で降り注ぐ矢も弾き飛ばされ、炎は更に勢いを増して壁にぶち当たった。
「いっけぇ!」
俺は渾身の一撃を叩き込んだ。
そのつもりだった。
「えっ、まさか……!」
ルシルが驚きの声を上げる。
「なっ……」
俺も一瞬今の状況を理解できずにいた。
町の壁が元の状態のままで俺たちの前に立ちはだかっていたのだ。
「ゼロしゃんの攻撃で……無傷!?」
トリンプの言葉が俺たちの気持ちを表現していた。