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干し肉がまたうまいんだ

「あ~あ、残念だったね~。あれだけおいしいおいしいって言ってくれたのに」


 ルシルはかなりがっかりしたようだったが、カインは全く逆だった。


「ただでもらった物だとしても、あそこまで喜んでくれるのだもの。ボクたちの作った干し肉は本当においしかったんだよ。それにほら!」


 今の大騒ぎした男性のおかげで、ちらほらとこちらを気にする通行人が現れた。


「ちょっとわたしにもいいかしら? 無料で配っているなんて信じられませんけど」

「はい、これはお一人様一口ですが、ただで食べてもらっていいですよ。どうぞご婦人、お一つ」

「あら、楊枝が刺さっていてつまみやすいのね。わたしお肉のベタベタした脂が苦手で、手に取るのは嫌でしたのに」

「これなら手も汚れずに、シルヴィア商会の森の干し肉をお味見してもらえますもんね。ささ、どうぞどうぞ~」


 カインも女性に食べるよう促す。


「そうね、お坊ちゃんの言う通りですわ。では一つ……んっ、んんんっ!」

「だ、大丈夫ですか!?」


 俺はうなる女性に手を差し伸べようとするが、カインは女性をさも当たり前かのように眺めている。


「え、ええ、もう平気ですわ。というよりも、ようやく戻ってこられたような気持ちですわ」

「戻ってこられた……?」

「こんな一切れでも、弾ける香りでつい夢の国へ足を踏み入れてしまいそうになってしまったのですよね、ご婦人?」


 カインは女性から楊枝を受け取りながら、気持ちを代弁するかのように話す。


「そう、まさにそうですわ。ああ、この幸せをおうちでも楽しみたいところですが……でも、お肉はこの辺りでは貴重品、なかなか出回らない高級品ですもの……ってええっ!」


 女性は値札を見て驚く。


「これ、こんなにお安いの!? だって大通りの干し肉といったら、もっと味が薄くてお肉も靴底のように固いのにこのお値段の倍はしますのよ!?」


 俺には相場が判らなかったが、確かに大通りを通った時、屋台で見た物はもっと高かった。カインはそれも見定めてこの値段にしたのか。


「カインはこういった価格とか価値を見極める目があるのです。私よりも確かな目利きですわ」


 カインのこととなるとシルヴィアは鼻高々だ。


「これ、いただくわ」


 女性は吊されている干し肉を指さした。


「ありがとうございます」


 そう言ってカインが干し肉を油紙に包みながら女性に手渡すと、毛皮で作った丸い球も一緒に付ける。


「これは商会からのおまけです。特に使い道はありませんが服の飾り手荷物に括り付けてもらえれば。きっと可愛いですよ」


 毛皮の球には紐が付けられていて、どこかに結んでぶら下げられるようになっていた。


「あらまあ可愛らしい。それにふわふわで気持ちいいわね。いいの、これもいただいちゃって?」

「ええ、今日はお買い上げいただいたお客様に、味以上、お値段以上のおまけを付けさせてもらっています」


 そう言ってテーブルの下から取り出した箱の中には、毛皮の球がたくさん入っていた。


「これ、カインがずっと作っていた……」

「うん、暇つぶしにって毛皮の端切れで作って遊んでいたやつがいっぱいになっちゃったから。毛皮ってここだと珍しいみたいだしね」

「そこまでしっかり見ているなんて、勇者の感知センサー系能力にも匹敵する洞察力だな」


 はにかむカインを見て、シルヴィアも嬉しそうだった。

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