生き残るための戦略
俺はSランクスキル閃光の浮遊球をまた一つ造り出す。
「ちょっと泥で汚れてしまったが……まあそれはいいだろう」
「いいだろうじゃないでしょ、何やってんのよもう!」
「ルシルそう怒るなって。あれは故意ではないのだ」
そこへトリンプが申し訳なさそうに近付いてくる。
「トリンプの事助けてくれたの。だからこれは故意じゃないから……」
もじもじしながらも嬉しそうに言う。
「そう、トリンプの……愛?」
「そういう事を言ってるんじゃないのよ! もう、何なの愛だの恋だのこの万年頭の中お花畑娘はっ!」
「まあまあルシル、そう怒るなよ」
「怒ってない!」
怒鳴り散らしてルシルは焼け跡へと歩いて行く。
「う……うぅ」
焼け跡からはブラッシュ軍の生き残り、いやこの場合死に損ないとでも言うべきか。死にきれない兵士が何人かいた。
「Rランクスキル氷塊の槍!」
ルシルの氷塊の槍が容赦なくブラッシュ兵の息の根を止めていく。
「これも慈悲の心なのかもしれないけどな、どうも八つ当たりのようにも……」
「何か言った!?」
「いや……」
ルシルが殲滅戦をやってくれているお陰で俺の労力もかなり軽減されている。
そう思う事にしよう。
「トリンプ、ちょっと離れてくれないか」
俺の腕にしがみついているトリンプに頼んでみる。
「ごめん……」
「いや、別に構わないんだが、一応まだ戦闘中だしな」
「うん」
トリンプは俺の腕を離し袖をつまんだ。
「うーん、まあそういう事でもないんだが……」
俺が困って頭をかいている所で遠くから声がする。
「うっわぁ、これは凄いですね……。ここまでとは思いませんでしたよ」
暗がりから出てきたのは俺に降伏した先発隊の百人隊長、バルとその部下たちだった。
「なんだ見ていたのか?」
「見ていたと言うより、あれだけ派手な炎が吹き荒れていちゃあどうしたって目立つってもんですよ」
「確かにな。それでお前たちはどうしたんだ。そのまま逃げてもいいのに」
「それはさっきも言ったじゃないですか。俺たちはどちらとも戦いたくないって。戦いを止める力も無いし、生き残った方に合流してもいいかなってくらいです」
「なんだ、思ったより打算的だな」
「まあ、生き残るには計算も大事ですからね、褒め言葉と受け取っておきますよ」
バルは悪びれずににやりと笑う。
「これで兵力としてはほとんど残ってないですよ、ブラッシュの町は」
「そうなのか? 遠征や沖合いの戦いでかなり戦力を消耗しているとは思ったがそこまでとは思わなかったな」
「ブラッシュもそんなに大きな国ではないので。あとは少しの守備兵と予備役の義勇兵がいるくらいですかね」
「そうか。バル、お前からも無駄な抵抗はしないように町の住民に伝えて欲しい。頼めるか?」
「いいでしょう、これも生き残るためですから」
俺たちはバルの案内でブラッシュの町へと向かっていった。