窓の外
俺が思ったよりも緊迫した状況がそこにはあった。
監視塔に入った俺たちは、塔の中の上層階にある部屋を使う。どうやら調度品からして管理職か中隊長クラスの部屋のようだった。
「ベッドは無いが大きめのソファーがあるな。それに毛布を使えば寝るには困らないだろう」
「雨風がしのげるだけでも大分違うよ」
ルシルは俺の考えに同意してくれる。
「トリンプ、君がソファーを使うといい。ルシルは毛布で悪いが」
「ううん、気にしないで。ゼロはどうするの?」
「俺は椅子で休むよ」
中隊長の椅子は革張りで少し豪華な造りになっていた。
俺が椅子に座って背もたれを倒すと、そこにルシルが飛び乗ってくる。
「おい、危ないだろう」
「大丈夫~」
俺が受け止める形になったが、俺の腕の中でルシルが寝息を立て始めた。
「すぐ寝るとはな。じゃあトリンプは適当に……」
俺も疲れが出たのか、ルシルの甘い香りを嗅ぐ内に眠気が襲ってきて意識が薄まっていく。
おかしい事に気が付いたのは夜も深くなってからだった。
「ルシル」
「ゼロも?」
「ああ」
下の方でざわめきが聞こえてくる。
俺たちは隊長室に陣取っているが、他の区画は降伏した兵士たちに任せていた。
「俺たちの寝首をかきに来たのか、それとも」
「もう少し眠りたかったなあ……」
何が起きているのかは判らないが、このまま寝させてくれるような状況ではないらしい。
「星明かりに目が慣れてきたのか、それなりに判るが……明かりを点けようか?」
「別にいいんじゃない、なくても」
「そうか」
「赤外線暗視は使えないからね、オークやゴブリンたちと違って」
「俺だってそうだよ。多少は夜目が利く程度だ」
赤外線暗視は温度変化を感じる事ができる能力で、亜人種が生まれながらに持っていたりする。
魔族といってもルシルは人間寄りの能力だから、複製人間である今の身体も赤外線暗視は使えない。
「あの……トリンプは使えるよ」
ソファーで横になっていたトリンプがいつの間にか俺たちの側に立っていた。
「赤外線暗視が使えるのか?」
「うん」
重ねて聞く俺の質問をトリンプは嬉しそうに答える。
「それじゃあそこの窓から外を見てもらいたい。人がたくさん来ているようにも感じるんだが、それがどれくらいかを知りたいんだ」
俺は部屋の端にある小窓を指さす。
「うん、いいよ」
小窓に近付くトリンプに続いて俺たちも小窓へと移動する。
「扉の方は大丈夫かな?」
「念のため氷結の指で鍵は固めてあるから、体当たりして突き破らない限りは入ってこれないから大丈夫だろう」
鍵をかけた上にドアノブやちょうつがいも一緒に凍らせておいた。ただ開けようとしても氷を溶かさないと開けられないようにしている。
「誰かが何度か扉を開けようとしていたみたいだけど、それは諦めたようね」
「ルシルも気が付いていたか」
「まあね」
俺たちは小窓の縁からそっと外を眺める。
真っ暗な平原だが人の圧力というか、何か気配のようなものを感じた。
「どうだトリンプ」
俺がそっとトリンプの横顔を見る。
「は……うっ」
トリンプは手で口を押さえて驚いた表情を見せた。