返り討ちの軍団
日が沈む所の反対方向だから東だ。その方向から騒がしい音が聞こえてきた。
「狼煙を見て集まってきたのだろうな」
「斥候かな」
「それにしては多いぞ。軽く百人はいるだろう」
俺の外套をつまむようにして後ろにトリンプが隠れる。
「どうする、このままだと奴らと鉢合わせしてしまうだろうけど」
トリンプは俺の外套をより強く握った。
「ゼロの強さはさっきの戦いで知っているから、一人で逃げるより生き残る確率が高いと思ったんじゃないの?」
ルシルはそう言いながら平然として東の土煙を眺める。
「それでいいのか、トリンプ」
俺が背後にいるトリンプへ確認すると、トリンプは俺の背中に飛びついておぶさる形になった。
「ちょっと、何やってんのよ!」
ルシルは止めようとするがまあ俺は気にしない。
「どうせ背中におっぱいでも押しつけられていい気分になっちゃってんでしょう!」
ルシルが俺の足を蹴るがまあ俺は気にしない。
「もう! 知らないっ! あとは勝手にやってよね!」
えらい剣幕でルシルは監視塔の方へと行ってしまった。
段々と土煙が大きくなってきて、その中にうっすらと連中が見えるようになる。
「日も落ちてよく見えなくなってきたな……。Sランクスキル発動、閃光の浮遊球。輝ける光よ俺を照らせっ!」
俺の手から放たれた光球が宙に浮いてとどまった。
光源が発生して辺りの闇が薄くなる。
「ゼロさん、明るい……」
「これで戦いになっても面倒が減る。それにしてもいつまで俺に乗っかっているつもりだ?」
俺はおぶさっているというよりは俺の背中にしがみついているトリンプに聞いてみた。
だがトリンプは特に気にするでもなく俺の首に腕を回してしがみついている。
「いいのこれで」
「はぁ……」
べ、別にだな、ルシルが言うようにトリンプのほどよく形の整った胸が俺の背中に押しつけられているがまあ俺は気にしない。気にしないのだ。
「なら振り落とされるなよ?」
しがみつきながらうなずく様子が俺の背中から伝わってくる。
「何か光っていると思ったら、なんだお前は!」
駆け寄ってきた兵士たちが俺の放った光源に集まってきて騒ぎ出す。
離れた所から見たら、まるで光に集まってくる蛾のように思えたろう。
「こいつ、魔族を背負ってるぞ!」
「周りに味方の死体が……! こいつ!」
集まってきた兵士が一斉に剣を構えて俺の周りに陣取った。
見たところ俺が倒してきた監視塔の兵士と同じような装備をしている。
「ブラッシュの兵士たち、だな」
「それがどうした!」
そうわめいた兵士の首が飛んだ。
その後ろにいる奴も俺の放った真空波で斬り刻まれる。
「返り討ちをしに来たんだ。降伏か死か」
俺は覚醒剣グラディエイトを素振りした。
その剣圧で俺に近付いていた兵士たちが何人か吹き飛ばされる。
「今決めろ」