奴隷制度と国の搾取
俺たちは軍を三つに分ける。
コームの町を防衛する部隊は魔族の優秀な司令官であるベルゼルが受け持つ。内政に関してはシルヴィアが健全な商取引の観点から整備を進めてもらう。
「頼んだぞベルゼル、シルヴィア」
「お任せ下さい!」
「ゼロさんもお気を付けて」
もう一軍はクシィ王国へと遠征へ向かう主力部隊だ。それまで奴隷貴族として辺境三国に虐げられていたドレープ・ニールが解放者の自由民の軍として率いる。
「戦果をお待ちください、陛下!」
「期待しているぞドレープ将軍」
「ははーっ!」
レイヌール勇王国含め俺たちの大陸からも兵力を連れてきて、都合一万の軍勢だ。
「度重なる遠征でクシィの国軍自体はもはや三千にも満たないらしいからな」
「はい、斥候からも報告を受けております。三倍以上の兵力であれば城攻めも可能でしょう」
「敵が籠城した場合でもコームの町と連携を取って兵を飢えさせないように」
「ははっ、かしこまりましてございます!」
そして俺はルシルとブラッシュの国へと向かう。
「相手も降ればよし、抵抗するのであれば俺たちに手を出した事を後悔させてやろう」
「そうだね。悪さを仕掛けてくるなら根元から枯らさなきゃ駄目だからね」
「まったく、平和に放っておいてくれれば何も問題無いのにな。なんでああいう奴らはちょっかいを出してくるんだか」
「なんだろうね? 奴隷制度のある国だったら単純に国力の増強、拡大戦略かなあ」
「誰かの搾取の上に自分が楽をするっていう程度の脳みそで、より贅沢をしようとか思ってしまったんだろうなあ。楽をしたければ自分で改善すればいいものを」
「誰かにやってもらうのは楽だもんね」
西の大陸には奴隷制度がはびこっている。
俺はその考え方が嫌いだ。
「他人に甘えすぎだろ。自分が百を消費するなら百一でも百二でも生産して余剰を作れるようにすれば、その余剰分だけ後の暮らしが楽になるはずなんだがなあ……」
「奴隷に百作らせてそこから三十を搾取する、奴隷には七十で生活させて自分は働かずにその三十を集めるだけ。それを四人分に広げれば一人で百二十消費できるってことね?」
「ル、ルシル……難しい計算をするなあ。確かにその考えだと一人の市民を養うのに四人の奴隷から奪う制度を作っていれば、そういう話も成り立つんだろうな」
「シルヴィアやカインから商人の勉強も教えてもらっていたからね」
ルシルは得意げな顔で俺を見る。
「こんなのんびりとした海沿いの平野だったら、漁業とか農業とかもいろいろできそうなものなのにな」
「そうだね、耕作できそうな土地も綺麗な川もあるのに。ねえゼロ、この辺りも土地を拓いて人が住めるようにできたらいいのにね」
「海に近いから塩に強い作物とか、災害対策とかもしなければならないだろうけどな」
俺はため息を一つ吐き出した。
「戦争なんかで無駄に命を使わないで生産に使えたらいいのにな」
「うん、そうしたら命懸けの旅なんてしないで済むのにね」
「そうだなあ、そうなったらそうなったでどうするかな」
「う~ん、私は別にゼロと一緒なら何をしてもいいなあ。狩りをして町に売りに行ったり、魔力細工とかもいいかもしれないな~」
「はははっ、ルシルが魔力細工なんて細かい作業できるのか!?」
俺が笑うとルシルは俺の足を蹴飛ばしてくる。
「やってみるの! 私だったら高魔力の凄いのができるんだから!」
「魔力の精度は高そうだけどな、細工物としての繊細さは……いてっ、そう何度も蹴るなよ」
俺は笑いながらルシルの蹴りを受け続けた。