二正面逆侵攻作戦
コームの町の司令部で集まっている面々から俺は一人を指名した。
「来てもらって早々悪いな、ドレープ・ニール将軍」
「そのために参りました、何なりとお命じください」
「俺も皆から説明を聞いてはいるが、このコームの町が辺境三国の内でも海洋都市として一番の発展を遂げていると言うが、敵船の様子を見るとクシィとブラッシュも海に強いように思える」
今回攻めてきた攻撃に特化した船や、俺たちの国に襲いかかってきた時の外洋を渡ってくる船の技術を考えると、コームだけが突出して技術が進んでいる訳ではないようだ。
元々沿岸漁業しか行っていなかった俺たちの国とは海との付き合い方がまったく違うから、どれくらいこの三国の中で差があるのかは判らないが。
「他の国は海にもそれなりに強いですが本質的には内陸国家です。陸軍を相手する方が難しいでしょう」
「ドレープ、お前は引き連れてきた兵とコームに残っていた自由民の中から戦に勝てるだけの部隊を編制してくれ。そして内陸からクシィを攻め落とせ」
「はっ、承知いたしました。敵軍は強力とは言え先の戦いでかなり損耗しているはず。十分な兵力と兵站をもって事に当たります」
「任せる。クシィが降伏でもしてくれれば楽なのだが、まあそうはいかないだろうからな。城攻めになる場合は援軍を待て」
「ははーっ!」
ドレープはかしこまって頭を下げる。
「俺はルシルと共にブラッシュへと向かう。聞くところによると海戦での火の玉攻撃もほとんどブラッシュの魔力スキル部隊だったようだからな」
「そうね、能力戦となったら一般兵じゃあ辛いでしょうから」
ルシルの言う通り、下手に軍隊を率いていたとしても敵の攻撃スキルには手を焼きそうだ。
「少数精鋭で攻め落とした方が被害が少なくて済む」
ルシルも同意してうなずく。
「ゼロ様、ワタクシは兵員の再編成と兵站の確保をするためにこのコームの町から指示を行うようにいたしましょうか。レイヌール勇王国からの受け入れも同時に行う必要がございますれば」
「ベルゼル頼めるか? お前が残ってここを仕切る事ができれば後顧の憂いがなくなるというもの」
「過分なお言葉、痛み入ります。ご期待に背かぬよう結果でお応えいたしましょう」
「流石は魔族の中でも魔王の右腕だった男よ。頼もしいな」
ベルゼルは丁寧にお辞儀をすると、氷のような微笑を浮かべていた。
「セシリア」
「なんだ勇者ゼロ」
「お前にはベルゼルと共にコームの立て直しに尽力してもらいたい」
「俺も勇者ゼロと共にブラッシュへ攻め入りたいのだが」
「そこを何とか、頼む」
俺はセシリアに近付いて耳打ちする。
「ベルゼルが住民への配慮を失うような事があればそれを押さえてもらいたい」
セシリアは納得顔でうなずく。
「そういう事なら。まあ俺の出番はなさそうだからな。警備兵の再編を進めるとしよう」
「ああ、頼む。それとシルヴィア、少しいいか」
俺は会議の場にいたが大人しく皆の発言を訊くにとどまっていたシルヴィアに声をかける。
「コームの町は支配者が変わって混乱もしていよう。理解をしている者が残ったとは言えまだ平穏無事とは言いがたい。シルヴィアには民の生活を安定させる方策に力を貸して欲しい」
「よろしいのですかこの私で。この間もお役に立てるどころかご迷惑をおかけしましたのに」
「それはもういい。シルヴィアが敵の手に落ちてしまった事はシルヴィアのせいではない。俺の考えが浅かったがため。一連の事を問題視するのであればその責任は俺にあると何度も言っているだろう」
「ですが……」
「いいんだ、今はとにかく無事でこうして仕事を頼めるようにもなったからな。治安がいいとは言えないだろうがそこはセシリアが面倒を見てくれるし、戦闘に加わるよりは安全だろう」
シルヴィアは涙を浮かべながら俺の方を見る。
「俺たちが帰ってくる場所を頼む。いいな」
「はい、ゼロさん」
シルヴィアは小さく笑って涙を拭いた。
「美味しいご飯を作れるように流通と市場の建て直しを全力で行いますね!」
「その意気だ!」
俺は勢いよく椅子から立ち上がる。
「皆、頼んだぞ! 背中に残す者たちが平和で暮らせるよう外敵を排除する! 今回の遠征はその第一歩だ!」
他の者たちも一斉に立ち上がり雄叫びを上げた。