配下の三国同盟
「誠に申し訳ございませぬ」
ベルゼルの第一声が謝罪のものだった。
「そう言うな、お前はあの状況でもよくやってくれた。それどころかお前の力が無ければこちらの被害がもっと甚大になっていただろう」
俺は逆にねぎらいの言葉をかける。
俺たちは結局の所本国から送らせた船三隻のうち二隻が大破、撃沈してしまった。
残る一隻と沿岸警備隊で使っていた船を使い、どうにか船員は救助し陸に揚げることができたのだがそれでも輸送した人員に少なくない被害が出てしまっている。
俺たちは仮の司令部に集まり、これまでに起きたこととこれからの対策に頭を悩ませていた。
「巨大船と言っても戦闘を考えての物ではなかったからな。ベルゼル、申し訳ないと思うのであればこの辺りの改善も含めていろいろと考えてみてくれ」
「ははっ! ご期待に添えますよう造船所の者共を使って設計の見直しを行うよう指示をしております」
「さすがは手が早いな。それにお前のことだ、ただ船を造らせるだけではなく改良点を付け加えての指示なのだろう?」
「はっ、改めて形となってから報告をと考えておりましたが、戦闘を考慮した設計に加え櫂と帆だけの動力に頼らない推進力も検討しつつ一から造り直すよう、造船技師だけではなく魔晶石を使用できる魔術技師を交えて進めております」
ベルゼルは俺とルシル、そしてベルゼル自身が行った高速航行から一般の船に対しても近い考え方で設計できるよう考えているのだろう。
「そうか、それは完成が楽しみだな。して、敵船がどこの者か調査は進んでいるだろうか」
「それでしたら別の者に調べさせておりまして、お、今その報告を……」
ベルゼルが振り返ると、司令部に入ってきた女性が俺たちに向かって一礼をする。
「ゼロさん、連れてきましたよ」
「ご苦労アガテー」
アガテーの後ろについてきた男が、深くお辞儀をして部屋に入ってきた。
「奴隷貴族のドレープ・ニールか。いや、もう奴隷でも貴族でもないな、ドレープ」
「はい、我、いや私も昔は国を治めていた者でしたが、コーム王国に滅ぼされ奴隷として使役されておりました身、それを解放していただいたのみならず以前の部下共々耕地をお与え下さったことに感謝いたしております」
ドレープは直立不動の体勢のまま、緊張の面持ちで話を続ける。
「此度はそのご恩をわずかでも返す事ができるよう、自由民となりました部下の内また戦いに身を投じる覚悟を持った者共を引き連れてこの地に戻ってまいりました」
「それは頼もしいぞ。奴隷の兵士たちは望まぬ戦いを強いられていたと考え、なるべく捕らえるに留めておいた。逆に自分たちの意思で侵略してきた三国の兵にはその命で償ってもらったがな、俺の判断が誤りでなかったということであれば少しは心の傷も癒やされると思う」
「そのようなご配慮を敵の奴隷であった我らに行っていただけていた事につきましては、皆が恩義を受けているものと考えております。ですので、これは我らの意思で、親を想う赤子のごとく陛下に忠節を尽くす所存でございます」
更にドレープが深々と頭を下げた。
「ドレープ将軍、今しがた戦った相手のことを教えてもらいたい」
俺は話を切り出して報告を受ける。
「は、奴らは凱王の治めるトライアンフ第八帝国傘下の辺境三国、クシィとブラッシュの連合艦隊でございます」
「クシィとブラッシュ、そして俺たちのいるコームが辺境の三国という事だな」
「その通りでございます。コームが落ちましたので陸上ではかなわないとみて海上での戦闘を選択したものかと思われます」
「なるほどな、それであれば」
俺は周りの連中を見た。
「陸戦が苦手な海洋国家であれば、その弱点を突く事は戦を有利に進める上でも重要な考えだな」
「ははっ、おっしゃる通りに」
俺たちの国に攻めてきたクシィとブラッシュの軍はことごとく撃退した。
「敵軍も敗戦の報は届いているだろうからな、それでこの動きを取ったとは思うが……さて、ここはお前に任せてみようか」
俺は司令部にいる者の中から一人指名する。