ブレスの強さと威力の強さ
俺は船縁でベルゼルの様子を見ていた。
確かにベルゼルのブレスは凄まじい勢いで風を生み出していて、高速船の帆をこれでもかと言う程に膨らませている。
「は、速い!」
ベルゼルのブレスで船が進む。あまりの速度に船が浮かぶかのような錯覚すら覚えた。
これにルシルの海神の奔流も加わり、更に加速が進む。
「これは凄いな。俺が氷の板で船を覆い、ルシルの水流とベルゼルのブレスで船が飛ぶようだ!」
俺たちは沖の船に向かって突き進む。
「ベルゼル待て! もういい!」
「おやゼロ様よろしいので?」
ベルゼルはブレスを止めて俺の方を向く。
その口の端からは濃い紫色の煙が立ち上っている。
「そのブレスもしかして……」
「はい、ワタクシの特殊能力の一つ黒煙の吐息です。スキルで言えばSSランク相当でしょうか」
「確かに威力はSSランク並みだな。だが後ろを見てみろ」
「おや?」
ベルゼルは船の後ろを振り返って見た。
「航跡が残っていますが……大分進みましたね」
「そうではなくてだな、あの浮いている物は見えるだろう?」
「はい、海鳥と……魚、でしょうかね」
「でしょうかねじゃないだろう。あれはお前のブレスの毒気に当たって死んだ奴じゃないか!」
「はい。黒煙の吐息は毒の霧を吐き出すブレスで、即死級の疫病を吹き付けるものですがそれが何か」
「お前のブレスを出し続けたらここら一帯の海は漁ができなくなるどころか死の海になってしまうぞ」
「ええ、それはもちろんですね。なんでしたらここ百年くらいは生命が根付かない土地にする事もできますが」
流石にベルゼルも魔王の右腕だった男、魔族の中でも最上級の能力を持っているだけあってその力は凄まじいのだがやはり魔族の感覚なのだろうか。
毒については俺は完全毒耐性を持っているから影響はないし、ルシルも魔王の抵抗力で無害化できているのだろう。
「毒の海では人間が困る。漁場はそのままにしたい」
「なるほど、海に生きる者を思っての事ですか。これはワタクシも配慮が足りませんでした、失礼いたしました」
こいつ、わざとやっているような気もしないでもない。いや、配慮が足りないというのは本心かもしれない。魔族にしてみれば基本的に人間の食料など気にすることではないからだ。
「だがまあ早めに気付いてよかった。危うくこの海が滅びるところだったぞ」
「それは申し訳ございません。コームの町をゼロ様の覇権の橋頭堡とするためにも、人間の扱いを今一度考慮すべきでした」
「ま、まあやってしまったことは仕方がない。浄化はまたこの戦いが終わってから考えよう」
「ゼロ様の寛大なるお心に感謝いたします」
そう言いながらもベルゼルは海上を吹く風に合わせて帆を操った。
ルシルが放つ水流の勢いもあって沖の船団に大分近付いている。
「見てゼロ、相手の船団から!」
ルシルが言うように、俺たちの知らない船団から無数の火の玉が巨大船めがけて飛んできた。