再編成と再構築
コームの町を支配下に置いてから復興が始まる。
王宮は俺が消滅させてしまったから、町の中でそれなりに大きい衛兵の宿舎を仮の司令部として立ち上げた。
「ゼロ~、町の人がどんどんいなくなっていくよ」
ルシルが毎日のように報告をしてくる。
「当然と言えば当然だろう。親しい者の仇だったりする訳だからな、そのままの暮らしをよしとしない者だって多いと思っていたさ。それでも残るという者は肝が据わっているというくらい珍しいとは思うぞ」
「やっぱりそうなんだ、人間って面倒だよね。私たちだったらそんな事気にしないし、自分が生きていく場所が確保できれば親とか仲間とかで暮らしを変えたりしないから」
「魔族は独自性が強いからな」
俺のつぶやきにルシルが慌てて口を挟む。
「でも別に仲間が大切じゃないって事じゃなくてさ、ちゃんと自分に見合った相手には誠意を尽くすよ」
「それは理解しているさ。だから俺も見捨てられないようにしっかりしなくちゃならないって事だよな」
「そんな事ないよ~。ゼロを見捨てたりなんてしないからさ!」
「本当か~?」
「本当だよ~」
俺たちがじゃれ合っている所を見て咳払いをしながら入ってくる者がいた。
「あー、ごほん。失礼いたします」
これも日課みたいになっている。
「毎日お盛んですな」
「なんだか含みのある言い方だな、ベルゼル」
「いえ、仲のよい事でワタクシとしても微笑ましく見させていただいております」
ベルゼルは飽きもせず毎回同様の皮肉を差し挟んでくるが、こいつが入ってくると言う事はそれなりに重要な報告があるはず。
「それで、そろそろレイヌール勇王国からの連携が来る頃かと思うが」
「流石はゼロ様、ワタクシの報告よりも先にご存知でしたか!」
「いや、ただ頃合いかと思ってな」
「なるほどそこまで長期の予想もされていたとは! このベルゼル、ゼロ様の千里眼にはかなう物ではございませんが報告させていただいてもよろしいでしょうか」
俺はうなずいてベルゼルの報告を促す。
「レイヌール勇王国より船団が到着いたしました。ご指示通り奴隷貴族のドレープ・ニールを筆頭に捕虜とした奴隷兵を一部連れてきております」
「帰国を望まぬ奴隷たち、いやもう自由民として奴隷ではなかったな……。彼らは新たに与えた耕作地で開拓にいそしんでくれているだろうか」
「報告によれば諸問題はありながらも概ね順調に推移しているとの事。また女性兵士や近隣の者と家庭を築く者も現れて、来年早々にも開拓民の第一子の出産予定もあるらしいですな」
「子供が生まれるか。親の世代は戦乱で苦労したかもしれないがその子供たちは平和な開拓民としての生を全うしてもらいたいものだな」
「それもゼロ様のお力あっての事でございます」
うやうやしくベルゼルがお辞儀をする。
「よし、港に行こう。彼らを迎えなければな」
俺はルシルとベルゼルを引き連れ、司令部の窓から港の方を見た。
町を隔てていた壁はところどころ撤去され、復興のための資材として使われている。
「町の壁を復興に使ってしまうというのも今まで壁が生活の一部だった者からすれば意外だったかもしれませんが、そこはゼロ様のご英断ですな」
俺の考えを察したのか、ベルゼルが壁の処置についても補足で説明をしてくれた。
「あ、ゼロ! 船!」
ルシルの指し示す先には数隻の船が波間に浮かんでいる。
「来たか」
波風と共に俺の味方となる面々も合流する事になるのだ。
「ねえあれ!」
ルシルが遠くを見つめる。
俺も目をこらしてその方向を見ると、水平線の奥に小さい悪意が見えた。