属州立て直し
俺はこのコームの町を西の大陸の橋頭堡として拠点化を始める。
町の中央にある広場を使って町の人々に通達を行うのだ。
俺とルシル、ベルゼルが広場の中心に陣取り、それを取り囲むように町の人々が集まってきている。
「残った者たちは俺と共に栄える事を承諾した者として扱うが、問題無いな?」
念のため残った住民を町の中心に集めて確認した。
住民から一人、手を挙げて質問してくる者がいる。
「王様……でいいんですかね?」
「ああ構わないよ。何かな」
「あの、俺らは王様に従う事を選んだんだけど、町にはまだ家に閉じこもって出てこない人や病気や怪我でここに集まれない人もいるんです。その人たちはどうしたらいいですか」
見ればこの男、働き盛りの年齢にも思える。何かのギルドで重要な職にあるか町の顔役といった所かもしれない。
「ここにいない者も自由意志で残るかどうかを決めてもらう。残る事を望まず、それでも移動が難しい場合は多少の援助をしよう。馬車などはある程度用意させる事もできる」
俺は質問してきた男に答える。
「ただ俺らは代々この町に暮らしてきたんです。それをいきなりやってきて出て行けと言うのは酷いと思うのですが」
男は怯えるそぶりも見せずに言いたい事を言う。
「それは重々承知している。だから出て行くか出て行かないかは各自の自由意志だ。多少不満はあれども支配者が変わった事に対して納得できるのであればこのままいてもらって構わない。俺が王になるという事を認めるか生まれ育った土地を離れるかを天秤にかけて、どちらが自分にとって望ましいかを選んでくれて構わないぞ」
俺がそう言うと、町の人々からざわめきが聞こえてくる。
「今までは王や権力者が勝手にやっていた。それを俺らに選ばせてくれるだけでも今回の王は今までとは違うぞ」
「でも選べって言われても、おらぁ選べねえよ」
「そうだなあ、いっつも命令ばかりだからいきなり選べって言われてもなあ……」
町の人々の悩みも理解できる。
ルシルが俺の手を握って話しかけてきた。
「ゼロ、民というものは自分では考えないものよ。考えているようで考えていない、それがこの国の民の当たり前なのよきっと」
ルシルの言葉を受けてベルゼルも口を開く。
「ルシル様のおっしゃる通り愚鈍な民は自ら考えるという事はしません。ですが己の生活に不満や不都合があるとそれは澱のように溜まっていきいつかは爆発するものです。今の内に後顧の憂いなく……」
「待てベルゼル。力の誇示は最後の手段だ。自ら選んで残るという者は大切にしたい。選べなくて残るという者も、いつかはそれに我慢ができなくなれば出て行ってもらっても構わない。ただ……」
俺は集まっている町の人々を見渡す。
「我が国民となる事を選んだ者たちには、理不尽な不幸が訪れないように俺は全力を尽くす。それだけだ」