城塞都市ガレイ華麗に登場
交易商人の手形と通行税としての若干の金銭を渡してガレイの門をくぐる。
「それでは商人ギルドに行って商売許可をもらってきますので、ゼロさんたちは少しお待ちくださいね」
シルヴィアがそう言い残して商人ギルドに入っていく。
ガレイの町は活気に満ちていた。城壁に守られているという物心両面での安心感も手伝ってか、警備の兵もそれほど見かけない。
道には落ちているゴミも無く、両側に広がる露店は新鮮な野菜や採れたての魚が並んでいた。
「いい町みたいだね、ゼロ」
「ああ、暮らすには良さそうだ」
「でも物価が高いよ」
さすがはやり手商人の弟、値札や看板を品物と見比べて価値を導き出しているようだ。
「もっと安くできると思うのに……」
「あら何を話していたの?」
そこへシルヴィアが戻ってくる。
「お姉ちゃん、ううん、ちょっと売っている物を見ていたんだ」
「そうなの。面白そうな物はあった?」
「うん、いろいろあるねここは」
「少し落ち着いたら見て回るといいわね。それではゼロさん、お待たせいたしました。商売許可をもらいましたので、売り場の所へ行きましょうか」
シルヴィアはこの町での商売の許可と、屋台の場所を確保してくれた。後はその場所で店を開いて持ってきた物を売る。
「自分が商売をするなんて初めてだからな、楽しみだよ」
「私も! 昔は欲しい物があったら部下が持ってきて……あ、何でもない、えへへ、お店屋さん楽しみー!」
浮かれているが楽しそうなのはよかった。
「それで、ここ?」
シルヴィアがギルドから指定された場所は、いくつもの小道に入った裏通りの一角だった。
周りにもちらほらと屋台が見えるが、人通りは少なくあまり流行っているとは言えなかった。
「こんな寂れた所で大丈夫か?」
「初めはこれくらいが相場ですわ。売る場所があるだけでも上々です」
俺たちは荷馬車の荷台とテーブルを使って売り場を作る。高めの柱を二本立ててその間に縄を通す。その縄に干し肉を吊るしていく。テーブルには鹿やうさぎの皮を並べる。
「おお、ここだここだ。やあシルヴィアさん、お店の準備はどうですかな?」
身なりの整った長身の男がシルヴィアに話しかけてきた。
「モンデール様、ようこそいらっしゃいまして。そろそろお店を開けようと思いましたの」
「そうかー、美しい女性がお店を出されるというのに、このような人気のない裏路地しか提供することができず、このモンデール、己の無力さに恥じ入るばかりです!」
いちいち身振り手振りを交えて大仰に話をする。
「シルヴィア、この方は?」
「このお方はガレイの商人ギルドで副ギルド長をされているモンデール様です。この方のご助力ですぐ許可が下りましたの」
「ほほう、それはそれは。ご協力感謝する」
俺が礼を言うと、モンデールは一瞬だけ嫌そうな顔で俺を見て、すぐにシルヴィアへ視線を移した。
「あーはいはい。男には興味無いからあっち行っててくれる? それでねシルヴィアさん、ここのお店できたら次はゆっくりお茶でもしないかな? 美味しいケーキを出すお店があるんだよー」
そう言いながらモンデールはシルヴィアの手を握って揉み始める。
「ちょっ、モンデール様」
シルヴィアは困った顔を俺に向ける。
俺はモンデールに近づくと、その手をつかんで折れない程度に握る力を強めていく。
「あいって! あいたたた!」
なんだこいつの腕、子供みたいに華奢だ。役人とか城壁の中でのうのうと暮らしている奴は貧弱だな。
「それくらいにしてもらえないかな、うちはそういう接待はしないんだよ」
俺が手を離すと、モンデールは赤くなった手首をさすりながら喚く。
「お、お前たち、せいぜい町のチンピラどもに気をつけるんだなっ! あいたたた……」
捨て台詞を吐きながらモンデールが路地に消えた。
「ゼロさん、ありがとうございます……」
ほおを赤らめてシルヴィアが礼を言う。
だが、俺は少しやりすぎたかと考え始めた。これが後々面倒な事にならなければいいのだが。