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一度着いた炎

 コーム王国の宮殿は重厚な守りと、生き残った衛兵たち王国兵に市民兵が加わり、激しい抵抗を続けていた。

 対するは今まで虐げられていた奴隷の兵士たちで、宮殿を取り囲むように布陣している。


「裏だ! 裏が抜けたぞ!」


 奴隷の兵士たちが裏手へ向かう。俺たちのいる正面口に残った兵はわずかだ。


「ゼロもうだめだよ。ここまで熱くなっちゃったら今さら止まらない」

「勝敗は決した。いや、俺たちが戦いに加わった時点で決まっていた。これ以上は戦闘ではない、ただの虐殺だ……」

「止めさせるの?」


 ルシルが俺の顔をのぞき込む。ルシルにとっては人の国でありそれも人間の国だ。どうなろうと構わないという考えがある。


「できれば無血開城を望んでいたのだがな、そうも行かないのであれば少しでも傷口は小さくしたい」

「なんでゼロがそこまでしたがるの?」

「俺としては秩序を保てるのであればそれがどこの国の者であってもいいと思っている。俺に敵対しないのであれば好きに暮らしていてもらって構わない」

「ふぅん」

「だがこれは俺の考えなのだが、一部の支配階級が己の悦楽のために民をないがしろにして国を混乱させようとする、その形は認めたくはないんだ。王はあくまで民あってのもので、物事を決断する責任を負うべきであって、ただ搾取するだけの愚王ではいけないのだ」


 俺は拳を強く握った。

 なぜ俺はそのように思ったのか。考えてみれば不思議だ。

 帝王学を学んだ訳でもなく王の血筋ですらない。

 ただの兵士上がりの勇者というだけだ。


「やっぱりゼロは仕えていた王に裏切られちゃったって思うからなのかもしれないね」


 ルシルの言葉に俺ははっとした。


「そうかもしれないな。為政者は世界の全てをその手で動かす事はできない。畑を耕したり武器を作ったり、そんな全ての事を一人ではできない。そこはできる者に任せる事が必要だ。俺はどんな軍にも戦力にも勝る力を持っていると思う」

「確かにゼロは誰よりも強いけどね」

「それでも複数の軍を相手に多少面で戦う事はできない。この身は一つだからな。それは先の防衛戦でも嫌という程感じた事だ」


 この西の大陸の連中が押し寄せてきた時、俺はコーム王国の軍隊を相手に勝利する事ができたが、北の沿海州、南のマルガリータ王国とも俺は手出しできなかった。

 結果としていずれの戦いも勝利する事はできたが、それは皆の働きがあってこそで俺の武力が導きだしたものではない。


「だから俺は自分が王となった今、自分だけでは何もできない何もなしえないという事を実感していて、それは皆を信用して皆に任せる事ができるからだと思っている」

「だったら余計、この国の人間は減ってくれた方がいいんじゃない? いつ反乱するか判らないんだもの」

「ああ。潰し合ってくれればいいし、その後に悠々と俺たちの国から人を送り込んできてもいいと思っていたが……」


 俺は奴隷の兵士たちと戦い、コーム王国の兵士たちとも戦い、そしてまた海を渡って彼らの事をわずかだが見て、そこにも生活があるのだと思った。


「国王は捕らえ副王は討ち果たした。この国を治める者はいなくなったんだ。だから国民同士で争い合う必要はないと俺は思っている」

「だからって言う事聴きそうにもないけど。それに戦いを止めなかったりこっちに攻撃対象を変えてきたら大変じゃない?」

「それも含めて、俺がこの国に点いた炎を力尽くでねじ伏せてやろう」


 俺は激しい戦闘の音が鳴る中で一歩踏み出す。


「どうするの……まさか」


 ルシルが心配する顔で俺と王宮を交互に見ていた。


「ああ、ルシルの思った通りだ」

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