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市民兵の抵抗

 町と外部を隔てる壁。城壁のように壁の中を通る事ができ、建物みたいな造りになっている。

 俺たちはその壁の中の階段を下りてきた。そこで曲がり角の向こうに誰かの気配を感じて待ち構えている状態だ。


「おい、誰かいるのか?」


 こらえきれずに俺が一石を投じる。

 階段の曲がり角から突如として現れる一人の男。

 身なりは整っているが鎧らしい装備はしていない。


「奴隷兵とは違うな」


 俺の敵感知センスエネミーが最大限に発揮される。

 耳の奥がかなり痛い。まあ、戦闘に影響のある程の痛みではないが、敵感知センスエネミーの中では強めの検知結果だ。

 すなわちそれは。


「俺の命を狙っての攻撃か!」


 男は俺に向かって剣を振り下ろす。

 俺はすぐさま覚醒剣グラディエイトをその男に叩き付ける。

 男の剣は階段の壁に当たって火花を散らし、俺の剣は男の頭蓋骨を叩き割っていた。


「ゼロさん、この人は……兵士ではないですよね」


 シルヴィアが頭をかち割られた男の身なりを見て俺に尋ねる。


「ああ。衛兵とも違う、町の人が武器を持って戦っているかのようだな」

「市民兵……」


 下の方の喧噪が大きくなってきた。


「戦場が移動している? 敵兵は一人見たら三十人はいると思えってな」


 俺は急いで階段を駆け下りる。

 地上階に降りる前にも数人斬り倒したがどいつも一般市民が武器や農具を持って立ち向かってくるものだった。


「外に出るぞ、気をつけろ!」


 俺は後ろにいるシルヴィアとアガテーに忠告する。

 アガテーは既に隠密入影術(ハイドインシャドウ)でどこかに紛れているのだろう。俺はシルヴィアの手を引いて壁沿いに門の方へ向かう。


「門が破られてベルゼルの動く骸骨(スケルトン)兵や奴隷の兵士たちがなだれ込んだんだろう」


 俺はシルヴィアを守りながら状況を確認する。

 壁の上から見ていた時にはまだ味方の兵はそれ程壁の中には侵攻できていなかったが、沿岸警備隊も衛兵も指揮をする者がいなくなった混乱を突かれて敗走しているようだ。


「そして自分たちの身を守るために壁の内側の市民たちが武器を手にして抵抗しているという事だろうな」

「ゼロさん、あそこ!」


 シルヴィアが示す先には沿海州の男たちが固まって隊列を組んでいた。


「ルシル! ベルゼル!」

「ゼロ!」


 ルシルが俺に駆け寄ってきて抱きつく。


「見てたよ下から。副王と警備隊長はやっつけたんだね」

「ああ。沿海州の連中と一緒にいるという事は、セシリアとも合流できたんだな」

「ええ」


 ルシルが振り返ると、その先にはベルゼルの隣に立つセシリアがいて俺に目で挨拶をした。


「それでゼロ、やっぱりこうなっちゃったね」

「途中まで作戦通りだったんだけどな、思った以上に権力者が腐っていたよ」

「仕方がないよ、これはそいつらが悪いんだもん」


 ルシルの言うとおり、シルヴィアに対して暴力を振るった奴らを俺は許す事ができなかったのだ。

 一事が万事と思えば、奴らは過去ずっと同じように力でねじ伏せてきていたのだろう。

 勝者の社会が形成されていたという事だ。


「だからこそ、奴隷区の連中たちが蜂起したように奴らの武力ではここまでが限界だったという訳だな。勝っている内はよかったのだろうが、俺に軍を潰されてから今まで通りにできなかった事に気付けなかった。それが奴らの敗因だ」


 市民兵の抵抗は散発的で各個撃破されていく。


「全軍に通達しろ。殲滅戦は不要! 抵抗しない者を傷つけると厳罰に処すと!」

「はっ!」

「暴行、略奪は一切禁止だ。禁を犯す者はこの俺の手で首を刎ねる、いいな!」

「ははーっ!」


 沿海州の男たちは俺の言葉を伝えるために散っていく。

 ベルゼルは動く骸骨(スケルトン)を戦闘区域から離脱させ、哨戒任務に当たらせた。


「でもゼロ、奴隷の兵士たちはどうするの? 今までの報復とかで歯止めが利かないんじゃ」

「ルシルの言う事ももっともだな。一応俺が彼らと別れる前に言っておいたのだが、それが徹底される補償もないし」


 俺は中央にあるコーム王国の宮殿を見る。壁の内側で高い建物は宮殿くらいしかないためにすぐ判った。


「俺は宮殿へ向かう。そこでこの町の戦闘終了を宣言しよう。ベルゼルは兵を集めて町の中に拠点を築いてくれ。シルヴィアはそこにいて欲しい」

「承知しました、我が主ゼロ様」


 うやうやしくベルゼルが応え、シルヴィアもうなずいて承知してくれる。


「ルシル、来てくれ。セシリアも占領後の事を考えて沿海州の者十人と共についてきてくれないか」

「いいわ。今回は隠密入影術(ハイドインシャドウ)を使わなくてもいいよね?」

「そうだな、堂々と行けばいいさ」


 俺たちは中央の宮殿に向かって歩き始めた。

 少し進むと宮殿の周辺で煙が幾筋か上がっていて、その焼け焦げた臭いが鼻に届く。


「ゼロ、あれって……」


 その様子を見て俺は深いため息をついた。

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