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壁の中の下り階段

 俺は遅ればせながらシルヴィアの元へと駆け寄る。


「Sランクスキル重篤治癒グレートヒーリング! 傷をふさぎ失われた気力を取り戻せ……」


 俺はシルヴィアに手をかざすと、勇者系の最上級回復スキルを発動させた。

 柔らかい光がシルヴィアを包み込み、痣になっていた部分が綺麗に消え去っていく。


「済まない、危ない目に遭わせた」

「いえ、私も不注意でした」

「そんな事はない。シルヴィア、お前は悪くないんだ。こんな危険な事になるなら初めから武力で……」


 そう言いかける俺の手にシルヴィアが手を置いた。


「ゼロさんは平和に物事を解決させようと努力なさいました。そのために私たちも協力したのです。それを無下に受け入れなかったのは彼らの罪です、ゼロさんが責任を感じる事はありませんよ」

「シルヴィア……」

「それに私ならもう大丈夫。ゼロさんの回復スキルのお陰でこの通りです」


 シルヴィアは立ち上がって傷が回復した事を俺に示そうとする。


「あら……」


 だがシルヴィアの足下がふらついてたたらを踏んでしまう。

 俺はとっさにシルヴィアの腕をつかんで引き寄せる。


「危ないからまず壁から降りよう。内側には壁の内部に入れる階段があるのだろう?」

「え、ええ……」


 シルヴィアは俺の胸に抱かれた状態で顔を赤くして答えた。


「まだ本調子には程遠いんだ、無理をするな。肩なら貸してやるからゆっくり行こう」

「はい……」


 俺はシルヴィアを抱えながら壁の中に進む階段を降りていく。


「アガテーも助かった。礼を言う」

「いえ、あたしだけではシルヴィアさんを助けられませんでしたから」

「そんな事はないぞ、あの警備隊長からシルヴィアを解放してくれて俺も自由が利くようになったからな」

「でも、ルシルさんの隠密入影術(ハイドインシャドウ)が失敗したのもあたしの教え方が悪かったから……」


 俺は空いた手でアガテーの頭をくしゃくしゃになでた。


「それこそお前のせいではないから気にするな。あいつは昔の事とはいえ魔王だっただけあって魔力はとんでもない量を持っている。それが気付かれないようにするなんて難しい話、当の本人がどうにかしなくちゃならない事だからな」

「でもあたし、ルシルさんたちが敵に見つかってもそのまま隠れていて……助けなかったから」

「それこそお前の手柄だぞ」


 今にも泣き出しそうな顔をしていたアガテーの頭を更にくしゃくしゃにする。


「お前がこらえてくれたからこそ、シルヴィアを影から守る事ができたんじゃないか。よくこらえてくれた」

「ゼロさん……」


 アガテーは泣き笑いのような顔を俺に向けた。


「それよりも問題は壁の内側だ……」


 俺は地上に近くなるにつれて喧噪も近付いてきている事に注意を払う。


「戦いの音、ですね」


 シルヴィアの声に俺は小さくうなずいて肯定する。


「シルヴィア、俺の後ろにいろ。アガテー、シルヴィアを守ってくれ」

「はい」

「ええ」


 俺は階段を降りながら下の方から上がってくる足音に警戒した。

 ゆっくりを音を立てないように剣を抜くと剣を構えて待機する。


「ゼロさん……」

「静かに。まだ敵感知センスエネミーは敵の気配を検知していない。相手が俺の見方なのか俺の存在を認識していないのか。さあどちらだろうな」


 俺は階段の曲がり角で、上ってくる足音の主を待ち構えた。

 足音が止む。相手もこちらの気配を察知したのか。


「来る……!」


 シルヴィアの息を呑む音が聞こえたような気がした。

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