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己の罪を悔いよ

 十メートルはあるコーム王国の壁、一般の居住区と奴隷区を隔てる大きな障壁。

 それを俺は垂直に上っている。


「うおお!」


 矢継ぎ早に凍結の氷壁(アイスウォール)で足場を形成しそこを駆け上がるのだ。

 傍目からは壁に見えない足場でもあるかのように見えただろう。


「ひいっ!」


 壁の上ではでっぷりと肥えた副王が怯えて立ちすくむ。その脇でどうにか立ち上がった沿岸警備隊の隊長が大きく湾曲した刀を抜き払って俺が壁をよじ登っていく姿を見据えていた。

 そんな警備隊長に向かって俺は駆け上がりながら吠える。


「待っていろよ、今すぐ剣の錆にしてくれよう!」

「ほざけ、人質がいなくともお前なぞに後れを取るものか! 戦場では高い位置を取った者こそ有利! お前が上りきるまでに攻撃すれば、たとえ俺が足を斬られようともお前の頭を斬り飛ばしてくれるわ!」


 警備隊長は俺が上る地点を押さえて高低差を利用した場所で戦おうとしている訳だ。


「高さが有利だと。それは普通の奴を相手にしていればそうかも知れないがな! 虚空を斬り割け、Sランクスキル発動、剣撃波ソードカッター!」

「なっ!」


 俺は壁に張り付きながら剣を横薙ぎに振り抜く。

 その振りから生まれた真空波が壁の上にいる警備隊長の身体を袈裟斬りにした。


「ば、馬鹿な……お前の剣は届かないはず……」

「残念だったな。俺の刃渡りは十メートルを優に超えるぞ」

「だ、だったら……」


 身体が斜めにずれながら警備隊長は壁から足を踏み外し、壁に張り付いている俺とすれ違うようにして落ちていく。


「壁を上らなくても攻撃できるじゃないかーっ!」


 警備隊長は落下しながら最期の叫び声を上げた。

 俺は警備隊長が地面に落ちる音を聞きながら壁を上りきる。


「ひゃっ、ばひゃらはひゃひゃ!」

「こいつ何を言っているのか判らんぞ」


 壁の上で副王が座り込みながらわなわなと震えていた。

 口は不自然に開き目は涙を溜めている。

 足下は失禁した染みが広がっていた。


「わ、わひゃは副王なるぞ、コーム王国で二番目に偉いんだぞ!」

「ようやくまともに話をする事ができるな」

「ど、どうだ、お前がその気なら警備隊長に、いや近衛隊長として地位と権力を与えよう! カミスキー陛下に儂から進言する、いや、今からでも任命しよう、な、近衛隊長ともなれば王国中枢の軍をまとめる事だってできるぞ!」


 いきなり副王は饒舌になって俺を取り込もうとする。


「残念だがカミスキーがここにいないのは知っているんだよ」

「ひゃっ、なぜそれを……」

「カミスキーは遠征先で捕虜になっているからな」

「そ、そうか、それなら話は早い、それなら儂がコーム王国の最高権力者である事は判っておるだろう!? その儂が任命するというのだ!」


 俺は呆れた顔で副王を見る。


「俺を勧誘してどうする? 近衛隊長だって?」

「なんだ、近衛隊長では不服か? それであればそうだ、コーム軍元帥の称号を与えよう! 元帥であれば全軍を掌握する事も可能だ! それならお前にふさわしかろう、な、な?」

「別に俺はお前から称号を与えられる事に喜びを感じたりはしない」


 俺は左手で副王の胸ぐらをつかみ持ち上げた。


「シルヴィアをあんな姿にしやがって。何よりそれが許せん。俺は穏便に済ませられる事ならそれでいいと思っていたが、あんな事をされちゃあ我慢だってできなくなる。だいたいお前らの性根が腐っている事が十分理解できたからな」


 壁の下では奴隷解放の兵士や俺が引き連れてきた仲間たちの手によってほぼ制圧されていた。


「内部からも反乱が起きるような状況では統治も難しいよなあ、ええ?」

「そ、それは……」


 俺は副王の顔に平手打ちをする。


「ぶひゃい!」


 副王の口から何本か歯が抜けて飛び出し、血とよだれが噴き出す。


「最高権力者はその椅子にあぐらをかいて座っているだけならどれだけ楽なのか知れないが、それをしていちゃあ国民が安心して暮らしていけないんだよな。為政者ならそれを理解していて当然だと思うが?」

「ふぁ、ふぁい……しょうでしゅ」


 俺はもう一度副王の顔をひっぱたく。

 叩かれた場所は赤黒く腫れ上がり涙がその上を伝っていた。


「はびゅびゅ!」

「だったら奴隷の反乱なんて起きないよなあ、うん?」

「ぶ、ぶわい……」


 もう一発、俺はビンタを加えると腫れたまぶたが切れて血が流れてくる。


「びゃは、やめれ……たしゅけれ……」

「だいたいコーム王国の副王ごときがレイヌール勇王国の国王たるこの俺に何を許可するというのか」

「お、王しゃま……?」

「そうだ。お前、交渉相手としてはまったくの役立たずだな。いやそれどころか害悪ですらある」


 俺は胸ぐらをつかんだまま副王を壁からぶら下げた。

 副王は必死に俺の腕をつかんで壁から落ちないようにこらえる。


「た、たしゅけ、王しゃま……」

「そうだな、俺が助けるとしたらこの国かもしれないな」

「国……?」

「ああ。お前じゃない」

「ふぁ……!」


 俺は左手で副王をつかんだまま、右手を副王の胸元に添えた。


「お前は俺が宣言した通り、爆散して果てろ。SSランクスキル発動、豪炎の爆撃(グレーターボム)!」


 俺は左手を離して放り投げ、それと同時に右手から放った炎が副王の身体を貫通する。


「ぼ、ぼひゃぁ!」


 その勢いで副王は壁から離れて落下していく。


「ひょ、ひょんにゃ~……ぼびゃぁ!」


 落下途中で副王の身体は炎に包まれ爆発四散する。


「お前のような腐った奴でも焼いてまき散らしゃあ土地の肥やしくらいにはなるだろう」


 俺の左腕にしがみついたままになっていた副王の両腕を引き剥がすと、そのまま壁の上から投げ捨てた。

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