無力化と己の無力さ
ベルゼルの造りだした動く骸骨がコーム王国の兵士たちを退けてくれる。
俺たちはその中を悠々と歩いて行く。
「風炎陣の舞をお見舞いしてやった効果もあったからな、門までは何事もなく行けそうだが」
「ゼロ、剣持ってなくて大丈夫?」
交渉として怪しまれないように覚醒剣グラディエイトは置いてきたのだ。俺の手持ちの武器といえば懐に隠し持っていた短剣だけ。
「だがなあ、敵の武器を奪う訳にもいかないし」
「なんで?」
「じゃあ試しに……」
俺は誰かが落としたらしい長剣を拾う。
「Sランクスキル剣撃波発動! 邪魔な門を斬り割いてしまえ!」
俺は拾った剣でスキルを発動させた。
剣を振った時に発生する衝撃波が門まで届くが表面を少し削ったくらいで消えてしまう。
「それにだ」
俺の手には剣の柄だけが残っていた。刀身はSランクのスキルに耐えきれなくて粉々になってしまった。
「ありゃ……。これじゃあ使い物にならないね」
「だろう? スキルはかろうじて使えるんだがそれでも毎回剣を拾ってくる訳にもいかなくてね。剣技系のスキルは使えないかもなあ」
「ですがゼロ様」
動く骸骨を造りながらベルゼルも会話に加わってくる。
「これしきの敵、ゼロ様のお力を使わずともワタクシだけで制圧してご覧に入れますよ」
「ベルゼル、それは頼もしいが俺もただ見ているというのもなあ」
「身体がなまってしまいますか?」
ベルゼルは意地の悪い含み笑いをするが一人でどうにかなるというのは本心なのだろう。
俺もベルゼルの能力は疑っていない。
「いいだろう、露払いを命じる。なるべく人の命は奪わないように、いいな」
「かしこまりました。命を奪わなければ多少の怪我は致し方ないでしょう」
「あまりいじめてやるなよ」
ベルゼルの爪が長く伸び、空気中をひっかくとそれが空間を斬り割いて敵に切り傷を負わせる。
俺の言葉が聞こえているはずだがベルゼルはお構いなしに敵兵の無力化を楽しんでいた。
「人間という物は脆弱な身体をしていますのでね、腱や関節を切ってしまえば立つ事もできなくなりますよ」
兵士たちの阿鼻叫喚が門の前で沸き起こる。
確かに命に別状はないだろうが戦闘ができないどころか日常生活にも影響が出るような怪我を負わされた兵たちがのたうち回っていた。
「ほほう」
ベルゼルは倒れている兵士を足で小突く。
まだ意識のある兵士はうめきながらもベルゼルから逃げようともがいている。
「逃げるくらいの元気があるようでは無力化とは言えませんねぇ。ワタクシもまだまだ加減が下手ですなあ!」
ベルゼルが倒れた兵士の膝を思い切り踏み潰す。兵士の足は変な方向に折れ曲がりその兵士は一瞬叫んだかと思うと口から泡を噴いて失神してしまった。
「命だけは取らずにおいてあげましょう」
ベルゼルの通った跡のそこかしこに無力化された敵兵が転がっている。
「ん?」
「ゼロ上、壁の上!」
門に近付いてきたところで壁の上が騒がしくなった。
「シルヴィア!」
壁は十メートルくらいの高さだろうか。
その壁の上には後ろ手に縛られたシルヴィアとそれをつかんでいる警備隊長、そしてその横にはふくよかな体形の副王が立っている。
「お前ら、シルヴィアに何をした!」
シルヴィアの腕や肩に赤黒い痣が見えた。