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亡国の民

 奴隷区に残っていたチンピラどもが驚きをあらわにする。


「カミスキーって、コーム国王の事かよ」

「なんでお前が国王の事を口にするんだ」


 俺は懐からペンダントを取り出す。


「これはカミスキーが降った時にその証として俺が受け取った物だ。この紋章をみれば国王の物だという事が判るだろう」


 俺は月明かりに照らすようペンダントを掲げて見せた。


「暗くてよく判らないが……その形とその紋章……コーム国旗に国王の紋が入っている……」

「それを手にできるのは国王だけだぞ」

「ならこいつの言う事は本当なのか」


 チンピラの一人が前に出てくる。


「だ、だがな、それが本物だと誰が証明するんだ!」

「そうだそうだ!」


 他のチンピラも調子づいて同調してきた。


「俺は国王本人から受け取ったがそれを証明する方法はない。この紋章を信じるか俺の言葉を信じるか、それくらいしかないがどうだ?」

「それで信用しろとはなかなか言うじゃねえか。だが確かに俺らの仲間の奴隷たちも帰ってこなけりゃ国王軍も戻ってこねぇ。戦局だってどうなってるか判らねえけど壁の中はやれ勝ち戦だやれ新天地だって浮かれていやがる」

「ほう、戦に勝っているのならなぜ誰も報告にすら戻ってこない? 新天地が手に入ったのであれば入植民を呼びに来ない? お前たちも薄々感付いているだろう、海を渡った先で戦に敗れたと」


 チンピラどもは言葉も出ない。うなだれて膝を付く奴もいる程だ。


「コームはもはや抜け殻の状態だ。兵員の大多数は俺が捕らえるか討ち滅ぼすかした。町一つの規模の王国と言う事は動員できる兵数もそれ程多くはあるまい」

「ぐ……」


 チンピラどもが何やら話をし始める。


「だから今回の出征には反対だったんだ。だから志願すれば市民にしてもらえるって話にも乗らなかったんじゃあないか!」

「確かに、俺らは俺らで奴隷区の中で生きる事を選んだんだ。知らない土地で戦争なんてまっぴらだってな」

「ああ、どうせ俺らは元々滅んだ都市国家の生き残り。国が亡くなって奴隷として生かされているに過ぎん……」


 何やら不穏な空気がチンピラの中に漂ってきた。


「なあ……」

「おう」


 チンピラは俺の前に集まると片膝を付いて礼をし、口々に話し始めた。


「俺らは奴隷から独立しようといつも考えていたんだ。これはいいチャンスかもしれねぇ。あんたの強さは十分理解した。コーム王が捕まったのも信じよう」

「今を逃すと俺らはずっと奴隷のままだ。かといってコームのために戦争する気にもならねえからな。だったら俺らと仲間たちのためにコームの奴隷から抜け出すんだ!」

「あんたが味方になってくれたら心強い! 難癖付けた事は謝る、だからここは俺らと一緒に戦ってくれねえか!? いや、それは虫がよすぎるか。ここは俺らを見逃してくれ、この通りだ!」


 深々と頭を下げて俺に言いがかりを付けた事を詫びる。

 その様子を見て俺は冷ややかな視線を投げた。


「何を言っているんだお前らは。俺は戦いに来たんじゃない。国王を捕らえたとはいえ交渉に来たつもりだ。それを奴隷の解放だ? 俺に何の得がある、内戦は内輪で好きにやってくれ」


 俺は一歩前に出ると身をかがめてチンピラどもを見下ろす。


「お前たちが俺に絡んできた事とはまた別の話だろう、ん?」


 俺の厳しい視線を受けて逆に心が固まったのか、チンピラどもは腹をくくった顔になる。


「判った、俺らが自由民となったらその後に改めて詫びよう。俺らの事はあんたが好きにしてくれて構わないが、今ほんの少しだけ待っていてもらいたい」


 チンピラどもは真剣な顔で俺を見た。もうこいつらの顔はチンピラのそれではない。戦いに臨む戦士の顔だ。


「いいだろう、お前たちの謝罪は後ほどもらい受けよう。約定を違えるなよ?」

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