殺しの線引き
追い剥ぎの男たちが色めき立つ。
「数に勝るからと調子に乗って、狙う相手を見誤ったな」
俺は殴りつけた奴の血をぬぐいながら追い剥ぎたちに睨みを効かせる。
「ルシルは中に入って」
「うん、そうする。終わったら呼んでね」
「ああ……、すぐ終わるけど、なっ!」
喋りながらも二人目の足首を剣で切り落とす。そいつは膝から崩折れ俺の足元でうめく。
そこに剣を突き立ててとどめを刺す。
「当然これくらいでは退かないよな、な?」
さらにもう一人の肘を斬る。腱が断たれて武器を落としたところでがら空きになった頚動脈を切り裂く。心臓の鼓動に合わせて赤い飛沫が辺りを濡らす。
あと三人。
「生きているうちに逃げてみるか?」
次の奴は一瞬で両耳を切り落とす。一度で振り抜いたように見えただろうが、その一撃の中に細かい斬撃を入れていた。
耳を押さえるその男の首に赤い線が引かれゆっくりと首と胴が離れる。耳を両手で押さえていた手がそのまま首を持ち上げる姿になる。
「殺し飽きた。いい加減通ってもいいかね?」
俺は一旦剣を納める。残った二人は攻撃を仕掛けてこない。
「ならば通るぞ」
睨みを利かせつつ荷馬車を進ませる。追い剥ぎたちは追ってくる様子もなかった。
「ねえゼロ」
ルシルが荷台から話しかけてきた。
「人間を殺すのって久しぶりだよね」
「まあな、前は魔物も人も向かってくる敵をたくさん殺したものだが、今は別に目的があるわけでもないからな」
「魔王を倒すとか?」
「まあそういう事かもな。ただ、今の奴らは程度の差こそあれ犯罪者だ。それも場慣れた感じからして初めてではない。そういう奴は生かしておいたら平和のためにならん。善良な市民のためにならん」
俺だって自分が強いからといって命を殺める事が好きなわけではない。とはいえ犯罪者をそのまま野放しというのも気持ちが悪い。
声を潜めて独り言をつぶやく。
「ただ面倒になって残りを放っておいたなんてルシルが聞いたら、甘いとかブレてるとか言うんだろうなあ」
「何か言った?」
俺の独り言、そのかけらが耳に入ったのだろうか。
「いいや何でもないさ。ほら、そろそろガレイの町が見えてきたぞ」
俺が指差した方向には白い煉瓦を綺麗に敷き詰めた壁が見えてきた。その周りにはアボラ川が流れている。俺たちの本拠地にある川と、他にも二本の川が合流して一本になって流れて行っていた。
「川辺に映える煉瓦造りの壁、綺麗だねー」
「そうだな、この見た目がうわべだけではなくて、住む人たちの心もそうであって欲しいな」
「そうですねゼロさん。私も平和な町であったらいいなと思いますわ」
「ボクも、そう思う……」
追い剥ぎにあったばかりの俺たちは多少の不安もあったものの、期待を胸にガレイの門へと向かった。