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浜辺の天幕

 上陸する俺たちをコーム王国のふくよかな福翁の副王、クフ副王が出迎えてくれた。


「やあよく来てくれましたね。無事、とは言いませんが生きながらえてこのコーム王国にまでたどり着かれた事、嬉しく思いますよ」

「お言葉痛み入ります。我々を受け入れて下さって感謝いたします」


 クフ副王の挨拶にシルヴィアが応える。


「グッフッフ、別に受け入れた訳ではありませんがね……いいでしょう、どうぞこちらへ」


 クフ副王は意味深な言葉を残して港を歩いて行く。


「こちらへ。ささ」


 警備隊長が俺たちを促す。口調は柔らかい物だが態度は有無を言わせぬ物だった。


「皆さん、参りましょう」


 シルヴィアが俺たちの先頭に立って副王の後を付いていく。


「ささこちらですぞ」


 副王が入ろうとしていたのは野外の天幕。砂浜に設けられた陣の垂れ幕で囲われた場所に何脚か椅子が置かれているだけの簡素な物だった。

 その状況を見てセシリアがぼやく。


「宮殿とは行かないまでもせめて建物にでも通されると思ったのだが」

「そう言うなセシ……モンデール。俺たちは難破してここまでどうにか辿り着けたんだ。上陸させてもらっただけでもありがたいと思わなければ」

「そうですね、判りましたよ」


 こういった俺たちの会話もあらかじめ考えていたものだ。相手の出方をうかがう時に使う方法で、より現場に近いものが物怖じせずに不満を口にする。それを上長である俺がたしなめるという図式だ。

 現場の者が上司の前でも不満を述べるという自由さを不自然に思われる事もあるだろうが、ここは駆け引きでもある。


「申し訳ない、用意できるのがこの場だったのでね。ご容赦願いたい」


 形式だけだろうが副王が頭を下げる。福翁と呼ばれるだけあって立ち居振る舞いも好々爺(こうこうや)然としていた。

 その含み笑いが悪い方向のものでなければの話だが。

 その空気を読んでか、シルヴィアが話を始めた。


「あなたは話の判る方と見ました。副王という事はかなり地位の高い方なのでしょう。そのようなお方が見ず知らずの国の者とこうしてお話をする機会を下さるのですから」

「グッフッフ、そう言ってもらえると嬉しいですなあ。特にあなたのようなお美しい美女の女性には、ねぇ」


 言い方が回りくどいというか、美しい美女の女性ってどれだけ意味が被っているのか。


「ですが副王としてこの国を守る立場にあるのでね、不埒な者が入国しないか最後は副王が確認しなくてはねぇ」


 副王はいやらしい目つきでシルヴィアを見つめる。まるで品定めでもするかのようだ。

 もう十分だ。俺一人でもこの国を滅ぼすことだってできるだろう。

 俺が懐に手を入れようとした時、ルシルが俺のことを肘でつついた。


「ゼロ」


 ルシルのお陰で俺は思いとどまる。

 シルヴィアが全てを悟ったように落ち着いた口調で話す。


「ありがとうございます。私の商船、隅から隅までお調べいただいても結構です。ただ……」

「ただ?」


 副王が変わらずいやらしい目でシルヴィアを見る。


「商品は我ら商人の命ともいう物ですので、それには一切お手を触れられませんようにお願いいたしますわ」

「ほほう、商品とな。それではこちらはどうかの……」


 副王はシルヴィアの太ももに手を伸ばす。


「副王様!」


 俺は厳しい口調で割って入ると、驚いた副王の手がシルヴィアに触れる直前で停まった。


「商品には一切お手を触れられませんように」

「お、おう……そうするとこの大商人の女主人も商品と見てよいのだな、うん?」


 福々しいのは見た目だけで一皮剥けばただのエロジジイだ。

 そこへシルヴィアが口を開く。


「ええもちろん、私も商人です。売れる物なら何でも売って差し上げますわ」

「ほほう、それではいくらか? 金十万か?」


 シルヴィアは首を横に振る。


「それでは二十万ではどうだ?」


 シルヴィアは変わらず首を横に振った。


「ええい、それでは五十、いや百万ではどうか!」

「いいえ副王様、お金の多寡ではございません」


 シルヴィアは優雅に立ち上がると座ったままの副王を見下ろす。


「私は私が認める程の器量をお持ちの殿方にであればこの身全て捧げますわ。副王様、服をお脱ぎになる前に副の字をお取りになってからご相談下さいな」


 シルヴィアはコーム王国の王が不在である事を理解した上で、副王に王でなければ自分を売るに値しないと言ってのけたのだ。

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