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福翁の副王が治める町

 船長役で商船の責任者役であるシルヴィアを交渉役として、その補佐に辺境領主令嬢役のルシルが付いている。実際の船長として船の指揮を執っていたベルゼルはルシルの執事役に扮していた。

 俺はそんなベルゼルに話しかけてみる。


「こちらの方が性に合っているのではないか?」

「と、おっしゃいますと」

「ルシルの右腕の方が居心地いいのではないかと思ってな」


 俺がベルゼルに軽口を叩いてもベルゼルはいつもの様子だ。


「お二人ともワタクシにとっては大切なあるじ、お仕えできることが至上の喜びでございます。それにこの執事という役もゼロ様がお命じになった事ですから間違いはございません」


 ベルゼルはうやうやしく俺に礼をした。

 そんなシルヴィアたちの正面には護衛役として付いてきた俺とセシリアが座る。

 カインは船に置いてきた。今は一応男の子の姿に戻って甲板員になっている。ヒマワリも護衛部隊の留守居役として船にいてもらった。


「なあルシル」


 俺は小声で確認する。


「あいつはもう?」

「ええ。思念伝達テレパスで連絡は取れるけど、もう」


 俺たちが警備隊には内緒にしているいくつかの事の一つに、アガテーがある。

 アガテーは隠密入影術(ハイドインシャドウ)で既に昨夜の内に上陸済みだ。


「何を話しているのだ?」


 警備隊長が俺たちの動きに反応する。声は聞こえていないだろうが、仮に聞かれたとしても理解できない内容だ。


「いや、小船だと揺れが大きいからお嬢さんたちには大丈夫かなと思ってね」

「ああなるほど、これは快速艇だからな。船足は速いがその分揺れも凄い。貴族の乗る豪華な遊覧船とは違ってな」

「それじゃあ酔わないように気をつけなくちゃ」


 警備隊長は不敵な笑みを浮かべた。


「それよりも振り落とされないように、だぜ」


 警備隊長が言うが速いか、小船の速度が急に上がる。


「風か!」


 俺の言葉も沖から吹き付ける風に流された。


「日が高くなって海からの風が強くなるからな、帆を張ればその風を上手く捉えて飛ぶように走る!」


 警備隊長は得意げになるが俺もルシルも超高速の船は体験済み。それに比べれば大した速度ではないがそれでも櫂で漕ぐよりは段違いに速い。


「さあ見えてきたぜ。あの桟橋にいるのが副王のクフ様だ!」

「えっ、いちば……」

「どうしたモンデール」


 俺はセシリアの言葉に被せるようにしてさえぎる。


「え、ああ、まあ、市場で商売をするような俺たちをそんな偉い人が出迎えに来てくれるなんて思わなくて……」


 セシリアの言葉に警備隊長もまんざら悪い気もしなさそうだ。


「そうだろうそうだろう。福翁の副王と呼ばれるクフ様だ、一介の商人とはいえ他国の者が困っているという報告を受けておでましになったのだ。何とも福々しいお方ではないか!」

「あ、あはは、そうだよな、うん。ありがたい事だ」


 セシリアは作り笑いでごまかす。

 副王という事は今のこの国の最高権力者という訳だ。危うく一番偉い、と口にしてしまうところだったから俺が割り込んで言葉を止めた。セシリアはそれに気が付いて言い直したのだ。

 なにせ、この国の王は俺たちが捕らえているのだからな。

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