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大海を行く

 俺たちは装備を調え出港した。

 みるみる沿海州のスターベイが小さくなっていく。

 遠くなった陸地の他は、晴れ渡った空とどこまでも広がる海。

 波は比較的穏やかで、威勢のいい掛け声と共に海を櫂で掻き分け船が進んでいった。

 俺は船内に入り漕ぎ手の様子を確認しに行く。


「適度に休憩を取りつつ交代で漕いでくれ。西の大陸まではかなりあるからな、ここで全力を出して疲れてしまっては元も子もない」

「そりゃあもうあっしらだって理解してやすよ」


 沿海州の男たちは真っ黒に日焼けした顔でにやりと笑う。その口から覗く白い歯が却って目立つ。

 男たちと離している俺の所へルシルがやってきた。


「ゼロも気にしすぎだよ……じゃなくて、お気になさりすぎでございますわ」

「貴族っぽい言葉を無理して使う必要は無いぞ。地方領主の娘だからって王宮住まいと同じように振る舞う必要も無いしな」

「え~、でもそれじゃあちゃんとした貴族って感じがしないじゃん」


 ルシルの言葉を聞いて漕ぎ手の中から声が聞こえた。


「そんな事はないぞルシルちゃん!」

「あ、えっ!? セシリア?」


 そう言えばルシルもこのところセシリアの事を名前で呼ぶようになったな。

 それはさておき、だ。


「こうして自分の力で船が進むというのはなかなか手応えがあって面白いぞ!」

「セシリア、なんで漕ぎ手に混ざって櫂なんか握ってるんだよ」

「勇者ゼロ、俺だって船の仲間だ。櫂だって握るし船だって漕ぐさ。何もおかしいところはあるまい」


 俺たちと出会った頃のようにセシリアは男装をして沿海州の男たちと一緒に船を漕いでいた。


「そりゃあ俺も後で手伝おうとは思ったが、何もセシリアがやる事でもないだろう」

「なんだ勇者ゼロ、俺の事を気にかけてくれるのか?」

「そういう訳じゃないけどな、一応お前も女なんだから」

「それはおかしいぞ、俺は護衛として戦いもするし肉体には自信があるぞ。なんだったら俺の身体を知っている勇者ゼロなら判っているだろう?」

「おかしな言い方をするな! あれは治療で仕方なくだな……」

「でもいい身体だったろう?」


 セシリアは船を漕ぎながらクスクスと笑う。


「判ったよゼロ、伯爵令嬢って言ったってああいうのがいるって事でしょ!?」

「ルシル、えっとな、あ、まあ俺が言いたかったのはなんだ、えっと、そんな感じだ。貴族だからって何も舞踏会に行くような奴ばかりじゃないって事だよ、うん」

「はぁ、私もこのままでいいって事だね」

「判ってくれて嬉しいよルシル」


 ルシルの変な貴族の真似事よりもセシリアの事の方が俺の頭を痛くする。

 これはきっと船酔いのせいではないと俺は思った。


「さあもう一汗かこう! どうだ勇者ゼロも一緒にやらんか!?」


 セシリアは嬉々として櫂を操っている。


「ええい、こうなったらヤケだ! 行くぞお前たち!」

「おおーっ!」


 俺は空いている席に座って櫂を握りしめる。

 周りの連中が笑いながらも掛け声をかけてくれた。


「せぇの、えい!」

「ほう!」

「えい!」

「ほう!」


 俺は掛け声に合わせて櫂を前後に動かす。


「まったく、頭の中まで筋肉だとこれだから困るわ……」


 ルシルの呆れたようなつぶやきには気付かないふりをした。

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