偽装商船
俺たちは沿海州のスターベイで逆侵攻のための準備を進めている。
「ゼロ様、船はクラーケン号の修理が終わりましたがその他の拿捕した船の損傷が思った以上に酷くまだ修理に時間がかかる見込みです。いかがいたしましょう」
「ベルゼルらしくもないな、いつもであれば代案を持ってきているだろうに」
「申し訳ございません。船の扱いに長けている沿海州の者共でも外洋を渡る船は初めての者が多く、的確な修繕ができないとの事で。巨大な旗艦と言えども一隻では侵攻するに足りぬと思いまして、商業船に見えるよう外壁に化粧板を貼り付けておきました」
ベルゼルは悪びれもせず自分の策を既に進めていたらしいが、確かに奴の言う通り一隻では偽装でもしない限り敵の喉元には飛び込めないだろう。
「商業船?」
「はい、交易船の体裁は整えております。地方の珍しい品々を積み込んで交易に来たように見せかけます。そのため乗員として商人と護衛の身なりで西の大陸へ向かうものとして考えております」
「ほう、それは昔俺も使った手だな」
「左様でございましたか。ワタクシの策がゼロ様の知略に少しでも近付けたのであれば望外の喜びにございます」
うやうやしく右手を胸の前に当てて礼をするベルゼル。
どうやら衣装や積み荷も用意していたようで、既に積み込みも終えているらしい。
「用意周到だな。流石は魔王の右腕だった男だ」
「滅相もありません。それでは早速乗船いただきまして、今後の方針を決めたいと考えておりますが」
「乗船する者たちの一覧はできているか?」
「はっ、こちらに」
ベルゼルは紙に書かれた名簿を俺に手渡す。
「どこまでも準備済みという訳か」
「恐れ入ります」
「本当に」
俺は一覧を見て今回の遠征に加わる者を確認する。
「商人はシルヴィアとカインか。商会の使用人には沿海州の男たちも加わるのだな。そして護衛は俺とセシリアを中心とした部隊で遊撃役をアガテー。船長をベルゼル、お前が担当するという事だな」
「はっ、形だけではございますが船の全てはワタクシが預からせていただきます。いかようにもご命じください」
「よろしく頼むぞ」
「ははっ」
俺はベルゼルの策に合わせて商人の護衛役を務める事になり、そのほかの者も数名が護衛役だ。
「ルシルはどういう役柄だ?」
「ルシル様は辺境の地を治める領主のご令嬢として、戦火を逃れるために疎開をしているという設定にしております」
「地方領主の娘か。魂の入れ替え前であれば魔王としての貫禄もあったから領主でもよかったのかもしれないが、今の少女の姿では令嬢と言った方が無難ではあるな」
「おっしゃる通りかと」
あとは櫂を操る者たちが船底に控える。この者たちも魔族や沿海州からの選抜組で西の大陸へ乗り込んでからは剣を持って戦うというものだ。
そんな陣容で海を越える。
「見ていろよ、今まで散々好き勝手やってくれたがここからは俺たちの番だ!」
俺は会議場を出て浜に見えるクラーケン号の巨大な船影を見て意気込んだ。