超巨大旗艦クラーケン号
俺は巨大船を近付けるだけ浜に寄せて停泊させ、沿海州防衛の際に拿捕した船と共に応急修理をさせる。
俺たちは小舟を使って岸まで上がり、降伏した敵兵を捕虜として連れて行く。
そんな俺にシルヴィアとカインが駆け寄ってくる。
「ゼロさん!」
「ゼロ様~!」
カインは俺に抱きついてモフモフの猫耳を俺の顔にすりつけてきた。
「よしよし、無事に帰ってきたからな、ほら土産もあるぞ」
俺は小舟に乗せていたイカの足をカインに見せる。
「これ、食べていいにゃ!?」
カインが早速イカの足に飛びついて、軽くかじってみた。
「ほにゃ~……」
カインが腰を抜かして座り込んでしまう。
「大丈夫かカイン!? 何かまずいものでもあったか……」
俺は急いでカインを抱えた。俺の腕の中でカインはぐったりしている。
「ううっ、これは遠慮しておくにゃ……」
「そうか? 口に合わなかったら済まない」
「気持ちはうれしいにゃ……ごめんにゃ……」
カインはぐったりしながらも俺に抱えられて少し安心した様子だった。
「ゼロさん、カインは身体変化している時にイカを食べるとぐったりしてしまうのです。少ししたら回復すると思いますのでご心配には及びませんよ」
「そうだったのか、それは悪い事をしたな……」
「いえいえ、カインもこの通り」
カインの表情を見るとうなだれつつも嬉しそうな顔つきだった。
「お姉ちゃん、ボクもう少しこのままでいたいにゃ~」
「まぁ! カインったら甘えん坊さんだこと」
「にゃ……」
仕方なしに俺はカインを抱きかかえたまま今の状況を岸にいた面々に説明する。
思った通り、開口一番にベルゼルが賞賛をし始めた。
「流石は天下にその名を轟かすゼロ様であらせられますな。かの大船団に加え海の魔物クラーケンまでも討ち滅ぼされるなど、歴史をひもときましてもどの英雄すらも成し遂げられない程の戦果と言えましょう!」
「そんな事はないさ。過去の偉人は俺よりももっと凄い事をたくさんしている」
「またご謙遜をされる辺り、どれだけ戦果を築かれましてもそれを鼻にかけない謙虚さ、これもゼロ様の徳なのでしょうな」
「もういい、なんだか背中がくすぐったくなる」
「左様ですか。それでは実務的な事を相談させていただきたく存じますがよろしいでしょうか」
「構わんぞ。まずはあの船の事からかな」
「もちろんでございます! ゼロ様は全知全能、全てご計画の通りかと存じますが、あの船はもちろん?」
もちろん……って何だろう。
「俺の考えとしては、あの船を改修して外洋に出られるだけの装備を調え、西の大陸へ逆侵攻をかけようというものだが」
俺の言葉で周囲の者が息を呑む。
ベルゼルだけが平然とした顔だった。
「おっしゃる通りにございます。流石はレイヌール勇王国建国の王、ゼロ様の深謀遠慮、敬服の至りでございます。つきましてはあの船は沿海州の者共に任せまして、侵攻と操船の者たちを手配いたしますが……」
「珍しくお前が言いよどむなど、どうした?」
「形だけとは申せ、船の名を決めとう存じますが、いかがなさいましょうか」
「ふうむ、そうだなあ……」
そう言えばあの貴族が言っていた海の魔物の名前、確か……。
「そう、海の魔物、かの者に出会いし敵には死を与えるとして、クラーケンと名付けよう」
「おおクラーケン! ゼロ様が屠りし海底の死神、その身と力を受け継ぎし船という事ですな! 海で生きる者はすべからくクラーケン号を恐れおののく事でしょう! 流石はゼロ様にございます、ワタクシなどゼロ様は海洋に関する知識に不慣れな点があろうかと考えてしまいましたが、ワタクシの浅はかさをどうかご容赦賜りたく」
「もうよい、それではクラーケン号でいいな?」
「当然にございます。それどころか他にあの船の名としてふさわしいものはございませぬゆえ」
ベルゼルの世辞を聞きつつ、俺は船を眺める。特に反対も無くあの巨大船の名はクラーケン号と決まった。
戦闘で傷付いた部分を手早く修理させ、外洋へと向かおう。
俺はいつになく高鳴る鼓動を感じていた。