死神との再戦
目の前には一度追いやった触手が柱のように海面から姿を出していた。それも三本。
「このイカ野郎、性懲りも無く出てきたか!」
俺は剣を抜いて臨戦態勢を整える。
海面は救助をする連中とされる連中とでごった返していた。こんな状態で巨大イカが襲ってきたら、救助どころではない。
ましてやこの巨大船を壊されでもしたら、捕虜たちの命は無いだろう。
「それにだ、この船があれば西の大陸への逆劇もできるかと思ったのでな、むざむざとやられる訳には行かないんだよ!」
俺は腰にロープを巻き付けると、それを船の手すりに結びつける。
「何かあったら引き上げてくれ!」
「大丈夫!?」
ルシルの心配する顔を安心させるように俺はそっと手を添えた。
「任せろ、仕留めてくる」
俺はそれだけ言い放って船から飛び降りる。
剣を下に向けて狙いを定め、落下する勢いに任せた。
「まずはこの足からっ!」
風炎陣の舞は表面を焼く程度には効果があったものの倒すには至らなかった。
剣撃波はSランクスキルと言えども弾かれてしまう。距離のある攻撃が効かないのであれば直接斬りつけてみよう。
「Rランクスキル炎の槍っ! 灼熱の槍よ敵を焼き貫けっ!」
俺は五発の炎の槍を触手に放つ。その着弾に合わせて剣を突き立てた。
「刺さる! なら!」
刺さったままの剣を横に斬り払うと触手の筋繊維が半分以上斬り割かれる。
船上からルシルの声が聞こえてきた。
「凄い! あれだけ斬られてしまえば自分の足を支えきれない!」
ルシルの言葉通りほとんど千切れかかった触手がうなだれるようにして海中に沈む。
「まだ!」
俺は沈みかけた触手を蹴り次の触手へと向かう。
「炎は効く。なら氷はどうだ! Sランクスキル凍晶柱の撃弾発動っ! 凍てつく刃よ、かの者に触れし時にはその身ごと爆散せよ!」
俺は正面の触手へ飛びかかりながらも別の触手へ氷の塊を飛ばす。
「これでも食らえ! SSランクスキル旋回横連斬! 回転する刃がお前を斬り刻む!」
正面の触手は俺の旋回横連斬で表皮をそぎ落とされ中身も斬り刻まれてバラバラになる。
それと同時に凍晶柱の撃弾が別の触手に触れた瞬間、急激に低下した氷がイカの足の水分を凍らせ体液の凍結に耐えきれなくなった触手が大きく膨らみ弾け飛んだ。
「瞬く間に三本! 流石は勇者ゼロ、いや俺の婿殿だ!」
セシリアも俺の戦いぶりを見て興奮しているようだな。
「そうするとそろそろか……ルシル、セシリア、今だっ!」
「判った!」
「おう!」
俺が指示をしてロープを引き上げさせる。一瞬で引っ張られるために急激に空中へ放り出される感じだ。
だがそれが適切であり的確であった。
「来たか、だが遅いっ!」
大きなくちばしが海中から飛び出して噛みつこうとしていた。だがそこに俺の姿は無い。
逆に俺は空中で体制を立て直し巨大イカの眉間に向かって飛び込んでいく。
「これで終わりだっ、SSSランクスキル重爆斬発動! その身を永遠に海中へと沈めてやるっ!」
俺の剣は巨大イカの目と目の間に突き刺さる。
その瞬間、イカの表面に現れていた毒々し色の模様が一瞬にして消えて真っ白な姿になった。
そしてその後には剣から放たれたエネルギーがイカの体内に広がり、全身が一斉に爆発四散する。
「なかなか歯ごたえのある奴だったな」
俺はロープをたぐり寄せながらゆっくりと上っていく。
「ゼロ、食べたの?」
「もののたとえだよ」
少しイカが吹き飛んだ時にその身の欠片が俺の口に入っていたのは内緒にしておこう。
大きいだけあって、大味だったからな。