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大物狩り

 俺がSランクスキル剣撃波ソードカッターを放って沈めた船がこれで三隻。


「勇者ゼロ、敵も反撃を始めてきたぞ!」


 セシリアの言葉を聞くまでもなく俺たちの乗る小舟に無数の矢が飛んでくる事は船首に立つ俺でも判っていた。

 それに敵船から漏れ聞こえる驚愕の声。


「なんだあの小舟は!」

「俺たちの船が!」

「一撃だぞ!」


 その混乱の度合いが増すと共に俺たちを敵視する者たちも増えていく。

 敵感知センスエネミーで俺に向けられる敵意が感じられ、それがどんどんと大きくなる。

 俺は波の上を走る船の上で後ろの二人に話しかけた。


「セシリア、ルシルを頼むぞ」

「もちろんだ!」

「ルシル、次は右前方の船を狙ってくれ!」

「判った……」


 次で四隻目。思ったよりルシルの消耗が激しい。岸からずっと魔力を放出しているのだ。魔王の能力を持っていたとしてもここまで継続してのスキル発動はかなりの負担になっている。


「行けるか」

「答えは判るでしょ」


 それでも気丈にルシルは答える。俺はそれを理解するというよりただ信じるだけだ。


「もう一発、派手にぶちかましてやってよゼロ!」

「任せておけ!」


 俺は右前方で旋回する巨大な木造船に狙いを定めた。


「もう一撃、食らえっ!」


 俺が剣を振り抜くと衝撃波が敵船に向かって飛んでいく。

 だがその途中で偶然なのか高い波が立って俺の剣撃を阻んだ。


「足りないかっ!」


 俺の嘆きの言葉通り、波に削られて敵船へ到達する頃には威力がかなり減少していた。

 剣撃波ソードカッターの衝撃波は船の脇腹を少し削り、櫂を数本折っただけで消失してしまう。


「ゼロ!」

「勇者ゼロ!」


 ルシルとセシリアが叫ぶ。


「そう慌てるな。SSランクスキル発動っ! 豪炎の爆撃(グレーターボム)で敵船をぜさせ焼き尽くせ!」


 俺は左手を敵船に向けて火の玉を射出する。

 燃え盛る塊が敵船に直撃し瞬時に爆発を起こした。

 爆発の威力は凄まじいもので、着弾点を中心に船が砕けて破裂する。

 海上に逃れられる奴もいるだろうが、この一隻でまた千人以上の敵兵が海底に没する事になるのだ。


「命を奪う事に喜びは感じられないが、これも敵の戦力を削り意気を消沈させるための必要な犠牲と思って理解して欲しい。死にゆく者にしてみれば納得はできないだろうがな」


 俺は爆発四散する船と共に焼け焦げ爆散し海へ放り投げられる敵兵を見てつぶやく。


「兵を差し向けた責任者は、俺に牙を剥くという事の愚かさをこの結果でもって思い知るがいい」


 沈み始めた敵船を横目に俺たちの船が駆け抜ける。


「ゼロ、まだ半分も行ってないよ。つ、次は……」

「そのまま直進だ。一度戦場から離脱する」

「いいの?」

「構わん。もう少し削っておきたかったが今の段階では四隻も沈められた。これでよしとしよう」


 俺たちの船は敵の矢が届かない所まで離れた。これで一息つける。


「でもこれじゃあ相手に守りを固める時間を与えてしまわないか?」


 セシリアが心配そうな視線を俺に送った。

 俺は凍結の氷壁(アイスウォール)で船を補強しながらそれに答える。


「敵は混乱している状態だ。混乱している連中の矢には到底当たるものではないさ」

「直撃は俺が全て撃ち落としているからな」

「ああ、助かっているよ。ありがとうセシリア」

「ばっ、急にそんな事……言う奴があるか……」


 はにかみながらセシリアがうつむいてしまう。

 俺は船尾にいるルシルへと話を変える。


「ルシル、魔晶石マジッククリスタルで魔力の補給は可能か?」

「魔力は足りるけど……」


 見ればルシルの手の甲が血にまみれていた。

 手の甲で船を押す形になったため、皮膚が擦れて出血してしまったのだろう。


「気付いてやれずにすまん」


 俺はSランクスキル重篤治癒グレートヒーリングをルシルにかけようとするが、それをルシルが制した。


「そこまで高度なスキルは使わなくていいよ。簡易治癒ライトヒーリングでいいから」

「そ、そうか。それでは、かの者の傷を今すぐ癒やし元の素肌にと戻せ、Nランクスキル簡易治癒ライトヒーリング発動……」


 俺の手からルシルの手の甲まで光の帯がゆっくりと流れる。

 少し距離のある所では直生スキルの効果が適用されず、こうして空気中を伝わって相手に届く。

 ゆっくりではあるもののしっかりとルシルの手の甲に俺のスキルが到達した。

 見る間に傷がふさがり血行のよくなったピンク色の肌に変わる。


「ありがとうゼロ」

「礼はあとの奴が片付いたらまとめてもらうよ」

「それじゃあお礼だけでは足りなくなりそうね」

「そ、そういう言い方はしないで欲しいな」


 ルシルは見るからに残念そうに落ち込んだように見せたが、口元が冗談の笑いをこらえているようだった。

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