巨大なガレー船団
Rランクスキル凍結の氷壁で覆った漁船が海の上を高速で飛んでいく。俺が氷の壁を船体に貼り付け続け、ルシルがRランクスキル海神の奔流で船尾から水流を放出して推力にする。
セシリアは船の上にいてこの速度に度肝を抜かれている様子だ。
「すごい……なんて速さなの。前方は氷の板で波をかき分けて後ろから大量の水を放出する。スキルと能力があっての事だが」
セシリアは舷側にしがみつきながら波の上を跳ねるように進む自分たちを冷静に分析する。
「船体を頑丈にして、水を噴き出させる方法があれば他の船でも速度を上げられるか……ここまでの速度は出ないにしても手漕ぎの舟や風を帆に受けての船に比べれば」
セシリアの言葉に俺が相づちを打つ。
「思ったより速度が出ているようだな」
俺は氷を船に貼り付けながらも前を見つめた。今までとは違う影。
「前方、まだ距離はあるが見えてきたぞ」
大きな船体の上側が見え始めている。
「あれが西の大陸の船か」
長い船体の腹から何十本もの櫂が飛び出していた。
停泊している状態のため、櫂は水面に着かないようにしていて、それが船から生えた無数の棘のようにも見える。
「アガテーはいい目をしている。確かに十五隻の巨大な船が沖合に停まっていたぞ」
「生きて戻ったら褒めてあげたら、ゼロ」
「それがいいな。ルシル、手は大丈夫か? 水圧をかけ続けると手にも負担がかかるだろう」
「それは平気だよ。それよりもこれから戦闘が始まるんでしょ?」
「ああ。間違いない」
「だったら戦闘に専念してよね。あとは私が舵をどうにかするから」
「判った。頼んだぞ」
「それはこちらの台詞よ」
ルシルの軽口に乗って俺たちは小さく笑いを交わす。
「それでは……凍結の氷壁の重ね掛けと行くか! 船に数十枚の氷の鎧を着せればある程度は補強をせずとも保ってくれよう!」
そうする事で俺は前方の敵船団に意識を集中できる。
「勇者ゼロ、敵船団は気付いていても小舟一艘では何もできないと高をくくっているようだぞ」
「セシリアの言う通りかもしれないな。奴らは安全圏と考えられる場所の中で危険の度合いを測ろうとしている。巨大な船の中にいて近付く小舟は脅威ではないと考えているだろう」
「ゼロ、それだとこっちにしては好都合だよね」
「ああ。それを狙って数隻は沈めたいのだがな」
「判ってる、操舵は私に任せておいて」
「頼むぞ。それにセシリア、俺たちに向かって矢を射かけてくるかもしれない。その時はルシルを守ってやってくれ」
「了解。それが俺の役目だからな」
俺は覚醒剣グラディエイトを抜き払うと、船首で構えて立つ。
「空間を斬り割き我が敵を両断せよ! Sランクスキル発動、剣撃波!」
俺は気合いを込めてスキルを放つと、剣を振った勢いで真空波が発生する。
その見えない刃が敵の巨大船を横腹を真一文字に斬り割いた。
斬られた場所から水が入り込み、その勢いで更に船体の穴が広がっていく。
「一撃って……流石は婿殿、やるな!」
セシリアは興奮しながらも敵船が沈んでいく様子を見ていた。
「まずは一隻!」
俺は血脂などは付いていない剣を大きく振るって気合いを入れ直す。
残りは十四隻。
波はまだ穏やかだが、海上はこれから阿鼻叫喚の地獄絵図になるのだ。