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奴隷解放

 日が落ちて潮風が陸の方から海の方へと向きを変える。

 薪がくべられて焚き火の明かりが強くなった。


「この沿海州も物見遊山で来られたらどれだけよかっただろうか」

「これが落ち着いたらゼロ様も沿海州で海の幸を堪能するにゃ」

「カインのあねさん、あねさんたちのお陰で海の幸だけじゃなくて肉も野菜もたらふくですぜ!」

「それは流通の基本にゃ、いい商品があれば他の土地で高値になる、ボクたちはそれを運んでいるだけにゃ。それでにゃかしら、次は日持ちのする干物の種類を増やそうかと思うのにゃ」


 カインは俺の膝から降りて沿海州の男たちと次の取り引きの話に花を咲かせ始めた。


「まあカインったら、まだ軍議も方針も決まっていないというのに……」


 姉のシルヴィアも困り顔だが、この自由さが今のカインには合っているのかもしれない。

 昔の姉の影に隠れていた気弱な少年の姿から大分成長したのだと思うと、俺も嬉しくなってくる。


「次の商売の事は大切です。そのためにもこの戦に勝って生き残らねばなりません」


 魔族の軍団を束ねるベルゼルはこの戦をどのようにすれば有利に事を運べるか、そこに苦心していた。

 ベルゼルの青白い顔が焚き火に照らされて赤黒く見える。


「俺としては……」


 俺は皆の顔を見回し、様子を探る。

 勝利したとはいえ被害がなかったわけでもないし物資も消耗しているだけに疲労の色が濃い。


「この戦いはよくやってくれたと感謝している。ただ、撃退したはいいがそれ以上のものはない。奴隷を捕虜としているが俺は奴隷をそのまま使おうとは思わない。できれば皆と同じ自由の身にしたいと考えている」


 少なからず動揺が走る。


「しかし勇者ゼロ、奴隷を解放したとして奴らが牙を剥かないとも限らないだろう。そこはどうするのだ?」

「セシリアが不安に思う事は俺も理解している。肥沃とは言いがたいが耕作できる土地はまだまだある。そこへ移り住んでもらおうと思う。もちろん初めは何もないところからの出発では立ち行くまい。そこは皆の協力を頼みたいと思う」


 セシリアは皆を代表して聞きにくい事を質問したのだろう。全員が大筋で納得をしたとは思えないが、一歩前に進む事はできただろうか。

 そこへベルゼルが口を差し挟んできた。


「陛下、ゼロ様。工作に際しては技術指導の名目で領主や技術者を置くとしましょう。また村を護衛する兵士として監視役も置くとすれば、おいそれとは歯向かったりもしますまい」

「ほう」

「そして捕虜たちは複数の村に分散して配置し、直接それぞれの村々が連絡しないように我らの町や村を挟む形で土地を与えましょう。少数ともなればたとえ反乱を起こしたとしても容易たやすくねじ伏せる事ができますからな」


 ベルゼルは捕虜たちが敵対する前提で物事を考えているが、最悪な状態としてはそれもあり得るかもしれない。


「できればそうならずに豊かに平和に過ごす事ができればいいのだが」

「流石は慈悲深き君主たる聖なる王、ゼロ様であらせられますな。ゼロ様の温情あれば奴隷に身をやつしていた捕虜たちも教化されて真っ当な生き方をするでしょう!」


 大仰に手を振り上げて俺をたたえるベルゼル。

 どうもその動作が大袈裟すぎる感じはするが、だが能力は高い。


「よかろう、ここは捕虜の分割案を進めるとしよう。詳細はベルゼル、任せてもよいな?」

「もちろんでございます。仰せのままに」


 うやうやしく礼をするベルゼル。

 焚き火でできた影が揺れる。


「過剰な振る舞いはするなよ」

「ははっ、肝に銘じます」


 捕まえた連中の処遇についてはベルゼルに任せるとして、そうすると次は残った敵の扱いか。

 悩み事は一向に減らない。

 もっと俺は楽をして気ままな生活を送りたいというのに。思った通りにはいかないものだな。

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