三つの戦場で
俺はコーム王カミスキーを捕らえて戦場から離れる。
「流石に溶岩が噴き出している中で設営はできないからな」
「そうだね。ウィブに離れた所まで連れて行ってもらう?」
「ああそれが助かる。ウィブはあれから難を逃れているだろうか」
「思念伝達を使ってみるから少し待っていてね」
俺はルシルが精神集中して思念伝達を使う姿を見守っていた。
捕らえたカミスキーは自決をしないように猿ぐつわを噛ませて、手は後ろで縛っている。
余程の事でもしない限りは勝手に死んだりしないだろう。
「ゼロ、ウィブがもうすぐ来るって。でも溶岩の熱さは流石に厳しいってさ」
「判った、少し場所を移ろう」
俺たちはカミスキーを引き連れながらすり鉢状のくぼんだ地形を上り、荒野を進む。
「まあ、このへこんだ地形は俺が作ったものなのだけどもな」
そのへこんだ場所は、五万の敵兵が命を落とした場所となるのだから、何かのおりに教会の者でも遣わせよう。
「ふぅん……。ゼロは霊体が苦手だからねぇ」
ルシルが意地の悪そうな視線を俺に投げかける。
「ここでアンデッドでも出られたら困るだろう、だから浄化をしておくというだけだ」
「はいはい、そういう事にしておくよ……あ、ウィブが来たよ」
ルシルは言葉の途中で空を見上げた。そこには立ち上る黒煙の中からワイバーンが飛行している姿を確認できた。
「勇者よ、無事であったかのう」
のんきな物言いでワイバーンのウィブが降り立つ。
「この様子を見れば判るだろう?」
「もちろん、上空から見させてもらったのでの、様子は判っていたが」
「なら聞くなよ」
「まあそう言いなさんな。ご無事で何よりだのう」
俺はねぎらうワイバーンの頭をなでてやる。
ウィブは少し目を細めて、俺がなでるのを楽しんでいるようだ。
「ルシル、少し距離があって辛いと思うが……」
「判ってる。他の戦場がどうなっているか、思念伝達で確認しろっていうんでしょ?」
「ああ。済まないな」
「いいのよ。もう聞いているから」
「おっと」
ルシルは既に沿海州とマルガリータ王国に連絡を取っていたというのか。
「それで首尾はどうだった?」
「うん……えっとね」
ルシルは懐からメモを取り出す。
「沿海州は敵船の上陸を阻み、逆激して敵船団に夜襲をかけてこれを撃退。指揮を執っていたクシィの首領を捕らえたって。マルガリータは籠城戦を行い守りに徹している所にベルゼルの遊撃隊が急襲、激戦の末にブラッシュの当主を捕縛した、だってさ」
「素晴らしいな! 各人立派に役目を果たしてくれている」
「ゼロがいなくても結果を出しているね」
「当たり前だ。全てを俺の力に頼る事なく物事を成し遂げられる。それが何より嬉しい事だ」
「そうね、でも皆が言うには、騎士の契約者の発動があったからだ、って」
騎士の契約者はSSランクのスキルだ。王に仕える騎士が発動できる戦闘系のスキルで、基礎能力をかなり上げる事ができる。
「俺の国民になる事で、俺の力が少しでも伝わる事ができたのなら、それで戦に勝つ事ができたのなら、望外の喜びだな」
ルシルは俺の言葉にうなずく。
俺が王になるだけではない。国民にも俺の力が伝わっている事が今の俺には嬉しく、ありがたかった。