王同士の一騎打ち
コーム王カミスキーが足を引きずりながら俺に迫ってくる。
こいつ以外に俺へ敵意を持っている奴はもはやいない。逆に言えばこいつは確実に俺に対して殺意を抱いている。勝てる勝てないは関係なく俺を殺しにかかっているのだ。
「いいだろう、こちらも王として敬意を払って相手をしようか」
俺は改めて覚醒剣グラディエイトを構え直す。
「ゼロ」
「大丈夫だ、なるべくなら命だけは取らずにおくつもりだ」
勝敗は度外視してその後の事をルシルも気にしている。
「予と戦うのに余裕があるな……。足をすくわれても知らんぞ……」
「なら試してみろ」
カミスキーは刀を大きく振りかぶって俺に狙いを定め、振り下ろす。
「太刀筋は悪くないが宮廷剣術程度だな」
俺は軽く刀を弾き返すとそれだけの力でも刀がカミスキーの手を離れて地面に落ちる。
「もはや刀を振るう力も持っていないようだな」
カミスキーは膝をついてうなだれた。息を整えるようにして手を腰にすえている。
「膝は屈しようとも手は付かぬ。さあ勝負は着いた、我が首を取り手柄としろ」
カミスキーがうつむきながら首を突き出す。
「いいのか?」
俺の問いにカミスキーが小さくうなずく。
「予に託された五万の兵士をむざむざ失い、その上で生き恥をさらす事はできん」
「そうか」
俺は剣を振り上げて首筋を狙い、一気に振り下ろす。
「っく」
カミスキーは振り下ろされる剣が空気を斬り割く音に息を呑む。
振り下ろされた剣がカミスキーのうなじに当たり、そこで止まる。
首筋にかかる髪が少し切り落とされて風にながれた。
「なるほど、責任を取ると言いながら命を投げ出して楽になろうというのか。それは甘ったれた考えだな」
「なっ、何を……」
「一国の王であれば命を捨てずに国を、民を想う事こそ肝要だろう。それを兵の損失で責任とは笑わせる。それは部隊長の覚悟だ、国王のそれではない」
俺は剣を鞘に納める。
「戦の勝ち負けで責を負うなど、死を覚悟した兵に対してもその覚悟を侮辱する行為だぞ」
「なら……予にどうしろと……」
「お前も捕虜になってもらおう。お前たちにとって五万の兵がどれくらい重要かは判らんが、交渉の材料になるかもしれないからな」
「……敗れたからには処遇を決するは勝者だからな、予はそれに従おう」
肩の力が抜けたのか、気丈に振る舞っていたカミスキーも立ち膝の姿勢から座り込んでしまった。
「すまぬ……予が不甲斐ないばかりに、数多の命を無駄に散らしてしまった……」
カミスキーは肩を震わせてうめく。焼けた大地には数滴の涙が染み込んでいった。