一切合切大伐採
俺は何杯目になるか判らない程シチューをおかわりしていた。
他の連中も温かい食事で腹が膨れたのか、満足そうな顔をしている。
「ドッシュ、どう鹿のシチュー。美味しいでしょ」
ルシルがヒルジャイアントに話しかける。
「ありがとうでやんす、姐さん。こんなに、うまいもの、初めて」
「ウマイ!」
ドッシュの言葉に合わせてイチルーも笑顔で叫ぶ。今回は頭を叩かれずに済んだな。
「そっか。それにしても似てるよね、ドッシュとボッシュって。イチルーとはあんまり似てないけど」
ルシルにはヒルジャイアントの細かい個性が判るらしい。俺は標準語が通じるドッシュとはよく話をするが、たまに間違えそうになる。
「あっしとボッシュ、双子なんでさ。イチルーは隣村の種族出身で」
「そうなんだ、じゃあジャイアントの集落って」
「へい、もう、誰も残っちゃいやせん」
「大変だったね……。でももう大丈夫! ここには私がいるし、それに」
ルシルと目が合う。
「私よりももっと強いゼロがいるからね」
さっき出会ったばかりの奴らなのに、やはり魔王の資質なのかすっかり心をつかんでしまったのだろう。俺もこんなに穏やかな顔の巨人なんて初めて見た。
翌朝、俺とルシルはドッシュたちヒルジャイアントを連れて森に入った。
「じゃあこの斧で木を伐ってみな」
「斧、木を伐る? ピカピカしている、硬い!」
「そうだ。お前ら斧って見た事あるだろ?」
「斧ありやす。斧、獲物潰す、戦いで使う。斧、石で作るんでやす」
「そうか石斧か。木を伐る道具ではないよな」
どうやらヒルジャイアントは金属の刃を持った斧は使った事がないらしい。
「なら見ていろ、俺が手本を見せてやる」
俺は斧を木に打ち付ける。
甲高い音が森に響き渡り鳥たちが一斉に飛び立った。遅れて森の中を衝撃波が突き抜けていく。
舞い散る木の葉が落ち着いた頃、俺が叩いた木から扇状に七本の木が倒れていた。
「あれ?」
「もっと力抜いていいのに。これじゃ手本にならないよ」
なぜか俺がルシルに注意された。
それで肝心の巨人たちはというと、力技大好きっ子だけに、目をキラキラ輝かせて俺を見ていた。
「じゃあやってみようか」
「へ、へい。あっしらにできるんでやすかね……」
それでも鉄の斧を木に打ち付けていく。リズミカルな音が森にこだまする。
「なかなか筋がいいぞ」
「えへへ……」
なりはでかいがこうして照れる姿というのも案外かわいいものだな。
「巨人族だってね、何も初めから悪意のある種族じゃないんだよ。生まれた環境、社会、そんなんでどうとでもなっちゃう」
「喜んで働ける場所、自分たちの生き甲斐。それがお互いのためになるなら、それが一番だよ。好きな事をやる、楽しい事をやる。それで自分のためにも人のためにもなる」
「うん。それがいいね」
俺たちが話している中ドッシュたちは楽しそうに木を伐っていた。
「親方ぁ……」
「どうした」
「ちょっと楽しくて、へへ」
見ると辺りは切り株ばかりになっていた。
今日の収穫、木材用原木約百本。