敵と味方で倒すか倒さないか
割れた大地から出てきた溶岩が噴水のように赤い光の柱を何本も突き立てていく。
「剣奴将軍と呼ばれていたドレイクのように、敵軍の中には俺のスキルに耐えられる奴がいたかもしれないが、流石に溶岩には勝てまい」
「だといいけど、私たちだって溶岩の真っ只中にいても無傷でいられているでしょう?」
「確かにな。俺たち程の力があればまた話は別なのかもしれないな」
だが恐らくそれは杞憂だろう。
辺りは溶岩の熱で全ての物が燃えていた。
噴き出す溶岩の直撃を受けた者はまだましかもしれない。熱気で服や髪が自然発火し始めると普通の人間ではどうしようもない。
「中には冷気を操るスキルを持っていた奴もいたようだが、死の瞬間を先送りにしただけだったな」
俺は既に戦闘態勢を解除している。
降り注ぐ溶岩弾を円の聖櫃ではねのけつつ陥没した大地の縁まで移動していた。
大きな町がそのまま入ってしまいそうなくらいの広範囲にわたって大地が沈み込み、無数の亀裂から絶えず溶岩が吹き出てくる。
「もうこの中に生きている者はいないようだな」
「五万の敵兵も一瞬だったね」
「ああ。外縁部にまだ生きている奴がいたら、引き上げるように説得してみようか」
「そうね」
俺たちは熱気立ち籠める中、逃げ延びた敵兵を探して歩く。
焼け焦げた死体は無数に転がっているが、生きていそうな奴は見当たらない。
「これでは全滅と言ってもおかしくないな……。さてどうしたものか」
撃退できたとすればそれはそれで十分役目を果たせたというものだが、生き残りの目撃者がいないとなるとなあ。
「私たちの怖さが伝わらなくなると、懲りずにまた攻めてくるかもしれないもんね」
「その通りだよルシル。俺はできたらこんな無茶はしたくないし、敵だって生きているしそれぞれの生活や未来がある者たちだ。逃げ帰ってくれるのならそれに越した事はない」
首脳部があったであろう陣幕も燃え残った一部が転がっているだけでその内側には数名の炭化した死体があるだけだった。
「敵将も焼かれてしまったようだな。少しやり過ぎたかもしれない」
「あら優しいことで」
「一応俺も勇者だからな。本来、依頼や人助けが目的みたいな所があるし、こうも一方的だとなんだか済まない気もしてくるよ」
「そんなものかしら。私は根っからの魔族だしその中でも魔王なんだもの、歯向かってくる人間は滅ぼすしかないと思うなあ」
「改心なんてしてくれないと?」
「うん。助けて恨まれたことはいくらでもあるけど、改心はなかったわね」
あっけらかんとルシルは言い放つ。
「そうなんだ……。それはそれで魔族っぽいけど」
「でもさ、ゼロに出会ってからはそういう気持ちも薄らいできたかもしれないなあ」
「ほう」
「だって、敵対していた奴でも今じゃあ引き入れて味方にしているのもいるからね。それもありかな、って最近思い始めてきたよ」
ルシルの魔王としての考え方も少し変わってきたというのだろうか。
それはそれで俺と考えが似てきたのであれば、なんとなく嬉しい気もするが。
「まあルシル自身、俺と戦って負けたのにこうして一緒にいるからな」
「は……、ほんとだ。そう言われてみればそうね……」
ルシルは何か思考の中に潜っていくような感じで悩み出した。
「うん、そう思うと私はゼロに会えてよかったよ」
何か吹っ切れたようで、ルシルはすっきりとした表情で俺を見る。
「色々と経験できたのはすっごく楽しいし!」
こんな時でも自分の成長が感じられて喜んでいるのだろうか、楽しそうに俺に話をしていた。
そこに一本の矢がうなりを上げて飛んできた。
その先にはルシルの背中がある。
「ルシル、矢が飛んできたぞ」
俺は特に騒ぎもせずルシルに状況を話す。
ルシルが振り向いたところで、飛んできた矢がルシルの胸元まで近づいていた。