荒ぶる天地は人災の香り
敵兵が盾を構えている仲間の後ろで弓を引き絞る。
そこかしこで聞こえる弦に力が蓄えられていく音。
その中で俺は剣を高々と空へ向けて突き上げる。
「敵兵がざわめいているね」
「させておけばいいさ」
俺の攻撃が止まっていて敵も矢を放つために動きが止まる。
思わぬ所で戦闘中の静寂が訪れた。
「放てぇ!」
敵兵で指示を出す声に従って弓の弦が弾ける音に次いで矢が飛んでくる音が重なる。
「私の全力、受け取ってゼロ!」
「おう!」
ルシルが両手を天に掲げていた状態から一気に引き下ろす。
矢が放たれて俺たちにまで届く、その一瞬。
「SSランクスキル発動、上空に漂いし雷を帯びた雲よ、今こそ解き放て! 爆雷煌!」
辺りが激しい閃光に包まれる。
そして轟音を立てて俺の持つ剣にとてつもない衝撃が伝わった。
周囲に響き渡る衝撃波で飛んできた矢が弾き落とされていく。
「この雷撃を逃さず……」
俺は落雷に似た圧力を受けながらも刃に魔力を込め、雷撃を剣で受け止める。
グラディエイトも覚醒剣となった事で以前より魔力の許容量が増えたのだろう。
「前より抑えが利く……ようだぞ!」
俺は雷撃を剣で吸収したままの状態で大地に突き刺す。
「SSSランクスキル、聖魔解放! 抱え込んだ全ての力を解放しろ!」
溜め込んでいた雷撃の力が、覚醒剣グラディエイトを避雷針のようにして大地へ流れていく。
それに俺のスキルの力が加わって受け止めきれなくなった地面が、悲鳴のようなきしみを立てながらひび割れ、めくれ上がり、弾け飛んでいった。
「おおおおおぉ!」
俺は持てる力の全てを大地に注ぎ込む。
その圧力に屈した地面が更に陥没し、巨大なすり鉢状のへこみができる。
「まだだぁ!」
「うんっ!」
突き立てた剣を握る俺の手にルシルの手が重なり、ルシルからも魔力が注ぎ込まれてきた。
剣をつかんだ俺とルシルが力を込める。
一段、そしてまた一段と地面が陥没し、俺たちを中心に大地の裂け目が生まれていく。
「うわっ!」
「ぎゃあぁ!」
大地が波のようにうねり敵兵で立っていられる者はいなかった。
断末魔と共に敵兵が深い崖のようになった亀裂に飲み込まれていく。逃げる事もままならない状態で次々と暗黒の崖下へと転がり落ちていった。
「雷が、雷がぁ!」
「揺れる、ゆれぇ!」
先程まで晴れ渡っていた空からは無数の雷が敵兵に落ち、大地は動かないものだという事を忘れたかのように上下左右に揺さぶられ、また新しい裂け目ができて敵兵を突き落としていく。
「これで……どうだぁ!」
俺が最後に気合いを入れて突き刺した剣を押し込んだ。
「む、手応え……あり」
かなり深い位置から俺たちが作ったものではない振動が伝わってくる。
大地が喉を鳴らしているような地響きが聞こえ、亀裂の奥が赤く輝き始めた。
「SSSランクスキル円の聖櫃! 俺たちを包め!」
俺が円の聖櫃を展開し魔力の壁が俺とルシルを包んだ頃、地面の奥底から熱気と粘り気のある溶けた岩が噴き出す。
「Rランクスキル凍結の氷壁。ルシルの周囲を氷の壁で覆え」
俺は温度変化無効スキルで熱によるダメージは受けない。ルシルだけ守れれば問題無いのだ。
「大地母神のお怒りだ!」
「火山でもないのに溶岩が噴き出してきたぞ!」
「た、立てない……」
敵兵が放つ阿鼻叫喚の中心にいる俺たちは少しのダメージにもならない。
スキルで守られている中、大災害に見舞われたような状態の敵兵を見ている。
「敵軍にとってはゼロと戦闘になった事が天変地異の始まりだったのかもね」
次々を炎に飲み込まれていく敵を見ながらもルシルは冷静に語っていた。