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高度な突撃

 晴れ渡る上空。

 俺とルシルはワイバーンのウィブの背に乗ってかなり高いところを飛んでいる。大地どころか眼下には雲海しか見えない。


「ウィブ、流石にこの高高度だと息が苦しいな……」


 少し目眩めまいのする状況に愚痴の一つもこぼれるというものだ。

 自分で選択したとはいえ、これは少々やり過ぎだったか。


「儂はそうでもないがのう」

「そりゃあワイバーンだからでしょ……」


 ルシルの突っ込みも元気がない。

 俺の背中にぴったりと張り付いているルシルは、うなだれるように俺の背中に顔を当てて大人しくしている。


「だがこれで敵の目を欺けるというもの。奴らもまさかこの高さまでは警戒しようがないだろう」


 少しだけ見える雲の切れ間から地面にびっしりと敵兵が集結しているのが見えた。


「天幕を張っている様子から見るとこの荒れ地を拠点としているのだろうな」


 西の大陸から侵攻してきた敵軍は、進軍できない状況にある。

 それというのも先行して送っていた奴隷の兵士たちが壊滅にあって一度は占領した瘴気の谷も取り戻されてしまったからだ。

 拠点にしようとしていた場所を取り替えされ行く当てがなくなった軍隊は、そのはるか手前で野営する事となった。


橋頭堡きょうとうほとして瘴気の谷が使えなくなった事は奴らにとっても誤算、勝機を失ったと言えるな」

「ゼロ、瘴気の谷と戦いの勝機を掛けていたとしたらつまんないよ」


 俺は咳払いを一つする。


「別にいいけどね」


 ルシルは軽く言い放つ。

 俺はもう一つ咳払いをした。

 別にやましい事はない。ただ喉が少しいがらっぽかっただけだ。


「そ、それはともかくだな、そろそろ敵軍の中心に到着しただろう」


 事前に想定していた距離まで飛んだ。

 アガテーの調査してくれた座標。そこで俺はウィブに指示を出す。


「急降下! 突撃を敢行しろ!」

「承知っ!」


 ウィブは羽をたたんで降下を始める。

 重力だけではなく小さく羽をはばたかせることで落下速度を更に増していくことができた。

 気圧の差で耳が痛くなる。敵感知センスエネミーとは違う感覚だが、敵が認知すればこの耳の奥の痛みもスキルによるものへと変わっていくだろう。


「雲を突っ切るからのう」


 ウィブの声も途切れ途切れになる。

 顔の前に雲の塊が押し寄せてきた。湿った空気が顔に圧力として押し付けられる感覚だ。

 まともに息ができないがウィブの首の後ろに顔を当ててどうにか呼吸を行う。


「ゼロ……息が……」

「もう少しの辛抱だぞルシル」


 雲を突き抜けるとそこには絨毯にひしめき合う蟻のように荒れ地に敵兵が所狭しとうごめいていた。


「敵に……認識された!」


 敵感知センスエネミーが発動する。

 それと同時に魔法の攻撃が俺たちを襲う。

 火の矢(ファイアアロー)雷の矢(ライトニングアロー)が中心だ。


「ウィブ、避けられるか」

「造作もない、これしきの攻撃!」


 炎が鋭い刃となって襲い来る。電撃は思いもしない方向からもやってきた。氷の矢は近くをかすめただけでも動きが鈍くなりそうだ。

 その中を旋回しながらウィブが急降下する。


「そろそろかのう、勇者よ」

「ああ。役目大儀っ!」


 ウィブは地上に突撃する直前で身を翻して大地と平行に飛ぶ。重量のあるドラゴンではできない、ワイバーンだからこそ可能な急旋回だ。


「このままなぎ倒して行くかのう?」


 翼のカギ爪でウィブが敵兵を弾き飛ばしていく。

 だがそれでは数を減らすには時間がかかりすぎるし何よりウィブの方が参ってしまう。


「よい、後は上空で待機していろ」

「承知した! ご武運を、勇者!」

「おう!」


 俺はルシルと共にウィブから飛び降りると、急上昇するウィブを援護するように辺りの敵兵を斬り飛ばし始めた。


「さあて、始めるとするか」

「うん」


 俺は掛け声と共に敵軍のまっただ中へ飛び込んでいく。

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