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多正面作戦

 俺たちは今後の方針を固めて会議を終了させる。


「ベルゼルの案を採用しよう。あの時の温泉、だな」

「はい。ありがたき幸せ」


 ムサボール王国を滅ぼした後、俺とルシルが対立した時に起きた事だ。それを今回も同じように作戦の要にする。


「それでは命令を下す」


 俺の言葉に全員が居住まいを正す。


「北はカイン、頼む」

「わかったにゃ!」

「沿海州の広い範囲を対応する事が難しいとは思うが海岸線をいかに維持し、敵の上陸を阻止する事が重要になる」

「うん、柵とか落とし穴とかも上手く使って陸に上がれないようにするにゃ!」

「現地でセシリアと合流して守備しろ。シルヴィアには兵站へいたん統括とうかつを任せるのでそう伝えてくれ」

「了解にゃ~! 行くぞ野郎どもにゃ!」


 カインの掛け声で沿海州の男たちから威勢のいい雄叫びが上がった。


「頼もしいな」

「へへ~」


 俺に頭をなでられてカインが目を細める。


「次に南、マルガリータ王国への援軍として、ベルゼル!」

「ははっ!」


 相変わらずうやうやしく右手を胸の前に当ててお辞儀をするベルゼル。


「瘴気の谷はバーガルに任せ、捕虜の管理を行ってもらう。それ以外の兵を引き連れマルガリータへ向かってくれ」

「マルガリータでは籠城戦を展開して敵軍を釘付けにせよ、とのお考えでございますね?」

「うむ、防備を固めつつ隙を見て遊撃戦も展開し、敵を混乱させると守りやすくなるだろう。また、夜間の戦闘も有効に活用しろ。夜目の利く魔族を多く連れているその利点を生かせ」

「ははっ、流石は個の力のみならず軍を率いても他の追随を許さない知略をお持ちのゼロ様。その一部だけでも此度こたびの戦は十分でありましょう」


 どうもこのベルゼルの態度が慇懃無礼いんぎんぶれいにも思えたりするのだが、これが本当に心酔しての事であればどれほど頼もしいか。

 一癖も二癖もある部下を率いるというのは、大変なものだな……。


「ルシル」

「ん? なぁにゼロ」

「いや、お前も昔は大変だったろうなって思って」


 ルシルは不思議そうに俺を見つめていた。


「よし、後は敵本隊、荒野に陣を張っている五万だが、俺はルシルと二人で対処する」

「ゼロさん、五万の軍に対してたった二人なんて!」


 アガテーが驚いて引き留めようとするが俺にとっては慣れ親しんだスタイルだ。


「俺は根っからの勇者だ。昔は一人で十万の魔族軍と相対あいたいした事もある」

「あの時は凄かったよ~、ゼロは」


 ルシルは当時俺にやられていた側だったのだが、それでも俺の鬼神のごとき戦いぶりを知っているだけに今は素直に肯定してくれる。


「それに温泉の事もあるからな」

「温泉? そう言えばさっきも言っていましたよね」


 アガテーに俺が以前ルシルやベルゼルと戦った際に、副産物として大地を割って地下水脈まで到達させてしまった事を説明した。


「うっそ! 戦っている影響で温泉を掘っちゃっただって!?」


 アガテーの驚きように、沿海州の男たちもざわめき出す。


「すげぇ……それが本当ならこの人、いや王様はなんてすげぇんだ……」

「それだって偶然だったり、いや本当かどうかも……」

「あ、ああ……」


 沿海州の男たちには好きに言わせておこう。別にそれを肯定も否定もする意味が無い。

 できる事はできるのだから、俺はただそれをやればいいだけだ。


「よし、各人その役目を果たせ! 以上、解散っ!」


 俺の掛け声で皆が一斉に立ち上がり雄叫びを上げた。

 会議室は割れんばかりの大音声が響き渡る。

 決戦は間もなくだ。俺の中も高揚感で満たされていった。

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