荒くれ者集団
沿海州の者たちが会議の場に入ってきた。内陸の国である俺たちとは確かに生活様式が違うようで、立ち居振る舞いからして自由気ままだ。
「へぇ、ここが会議場で、あんたらがこの辺りの王様たちですかい?」
「ひゃぁ豪勢なこって!」
「太陽が……薄い……」
武器の手入れをする奴や身体のあちこちを掻いている奴、テーブルに置いてある形式的なお茶請けに手を伸ばす奴もいた。
「お、こりゃ美味いな!」
お茶請けのクッキーを頬張っている若い男が食べながらしゃべるものだから、口から食べかすがいくつも落ちていく。
「ちょっとなんだいあんたら! 勝手にも程があるだろう!?」
アガテーが立ち上がって入ってきた男たちを注意する。
「お、若くていい姉ちゃんじゃねぇか」
「それに具合よさそうな身体してんなぁ」
男たちは舐めまわすような視線をアガテーに向けた。
立場柄、目立たないような服装にはしているものの大きすぎる胸が強調されるのか、男たちの視線の餌食になってしまう。
「ちょっ、やめ……見んなこら!」
好色そうな視線が気になってアガテーは腕を胸の前で交差させて身体を縮こめてしまった。
「嫌がっているんだ、やめるのにゃ!」
カインが一喝すると、男たちの姿勢がいきなりよくなった。
というより直立不動の状態でカインの命令を待っているようだ。
「よしよし、それでいいにゃ」
カインが許可を与えると、用意された予備の椅子に男たちが座った。
「すごいなカイン」
「えへへ~」
俺がカインの頭をなでると、カインは俺にすり寄ってくる。
「あななたちは沿海州の村々から代表として来たのでしょう?」
ルシルの質問に男たちはうなずいて応えた。
「カインの言う事はよく聴くのね」
「へい、あっしらいろいろありやして、カインのあにさん……いや今はあねさんか。そのあねさんに頭が上がらないんでさ。海のないこんなとこまで来たって事でちょいと無作法じゃあありやすが、どうかよろしくお願いしますぜ」
「カインのあねさん?」
「そうなんだにゃゼロ様~。ボクがこの姿の時はそう呼ぶんだにゃ」
「へぇ、すごいんだな」
カインははにかみながらも嬉しさが隠せない様子だ。
「しっぽ、パタついているぞ」
「にゃはっ!」
興奮して振り回していたしっぽをカインが両手で押さえる。
「カインのあねさんには、あっしらとてもよくしてもらってんで。今回はその礼とばかりに沿海州の村も手を貸そうって事になりやしてね」
「そうなんだにゃ、どうしてボクにそこまでしてくれるのかは判らないんだけどにゃ~」
「いえいえ、カインのあねさんはあっしらに商売のイロハを教えて下さいやしたし、夜目が利くところとかは夜の漁でとても役に立ってくだすってんで。それに海沿いの村に大量の肉を持ってきてくれたのが何よりでさぁ!」
「肉かあ……」
沿海州の男たちの胃袋をつかんだという訳か。
「カインのあねさんが肉の流通を止めちまったら、あっしらこれからどうしたらいいか……」
なるほど、通商ルートをカインやシルヴィアたち内陸の商人が一手に握っているともなれば、自分たちが流通を学ぶまではカインたちに頼らざるを得ないというところだな。
そう思うと猫耳娘の姿でありながら、カインのそつのなさは更に磨きがかかっている気もする。
「シルヴィアはどうした? 一緒じゃなかったのか?」
「お姉ちゃんは沿海州に残って補給路の確保をしているって言っていたにゃ」
「兵站か。迎え撃つにしても補給は最重要事項だからな」
シルヴィアは一手も二手も先を見ているものだ。
「流石ですなゼロ様、計画の更に上の成果を見越してのご慧眼、まさに神算鬼謀でございますな!」
「何がだ?」
ベルゼルが熱のこもった視線を俺に向けながら言葉を続ける。
「シルヴィア様に商人の統制を指示されておりましたが、まさか商人たちという枠が沿海州まで広げておられるとはこのベルゼル、未だゼロ様の知略のそこの深さには驚きを禁じ得ません!」
「そう言ってくれると嬉しいが、少し買いかぶりすぎやしないかベルゼル?」
「いえいえ、そこで沿海州の民を力で縛るのではなく食で縛る、それも奪うのではなく与える事で利害を説くとは人心掌握にも長けたお考え。英明なるお方に仕える事ができまして、このベルゼル望外の幸せに存じます!」
ベルゼルは大袈裟だなあ。まあそう言われて悪い気はしないが。